いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

「一首鑑賞」-338

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

338.コピー機の足りない色に紫陽花はかすんでここに海があったの?

 (吉田竜宇)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで黒瀬珂瀾が紹介していました。

sunagoya.com

 一読して、ああ、いいなぁと思いました。かすんだ紫陽花、海。私は、このコピーが全体的に青っぽく出力されたのかなぁと思いながら読んだのですが、

 

インクにはブラック、シアン(青)、マゼンダ(赤)、イエロー(黄)とあるが、下句の「海」から連想するに、シアンが切れていたのか。

 

とある通り、「青が足りない」という読み方もできるみたいです。この紫陽花はもともと何色だったのだろうか。

 

 黒瀬珂瀾はさらに、

 

「ここ」はコピー用紙を指す以上に、いま自分がいる世界そのものを指すんじゃないか。「海」はシアンの比喩である以上に、失われた大切な命の源のような存在を指すんじゃないか。上句と下句で主人公の立場が大きく変わることが、そんな読みを誘う。コピー機の前に立つ日常の《私》と、干上がった海にたたずむ幻の《私》。複数の《私》が同時に存在する。そうしてデジタルな複製機と、複製されない命との間の、気の遠くなるような隔たりに、私たちはさらされる。

 

と読んでいます。インク切れでかすんだコピーが出力されて、それを手に取って立ち尽くす時目のまえに海を見ること。ぼうっとするほど詩的ですよね。

 

 しかし、「複製されない命」と読むのならば、逆に「複製されるDNA」と読むことも可能だなぁと思った。コピー機に足りない色があったように私たちの細胞にもエラーはあって、全ては大河の一滴にすぎないのだ。

 

 

近いほど空は見えなくなってゆくシアン計には50もの青 (yuifall)

 

読書日記 2025年5月28日-6月3日

2025年5月28日-6月3日

・伊舎堂仁『トントングラム』

吉本隆明『定本 言語にとって美とはなにか』Ⅰ

オルダス・ハクスリー(黒原敏行訳)『すばらしい新世界

・中澤系『中澤系歌集:uta0001.txt 新刻版』

 

以下コメント・ネタバレあり

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「一首鑑賞」-337

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

337.父われを見むと来たれる東京の子もうれしみて席に加はる

 (窪田空穂)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで石川美南が紹介していました。

sunagoya.com

 これ、一読した時は意味がよく分かりませんでした。でも何となく気になって鑑賞文を読みました。前半は、石川美南とタクシー運転手さんの会話が描写されています。そして後半に歌の意味が解説されています。

 最初、「父」「見むと来たれる」「子」という字面から、とっさに授業参観的なシーンを想像したんですよね。でも「父われを」というのは、父である私を、という意味です。つまり「東京にいる子」が、「父である私を」見に来て、喜んで席に加わるシーンだと。解説によると、

 

窪田空穂は1945年3月、東京から長野県の生家に疎開した。この日は、空穂69歳の誕生日祝いを兼ねて歌会が催された。疎開先ではなかなか手に入らない頭つきの魚を持ってきてくれる人もいて、皆で赤飯を食べ、歌のことや空穂のことを大いに語り合う、賑やかな会だったようだ。

 

ということだったそうです。疎開の最中でした。詳しい事情はよく分かりませんが、1945年の3月といえば東京大空襲で東京が焼け野原になった頃です。この歌が詠まれた日は「窪田空穂の誕生日」ということで、調べたら6月8日でした。「東京の子」に会えた喜びは父の方が大きかったかもしれないなぁと思います。

 

友の訃報に際して作った歌や、離れて暮らす家族を思う歌、疎開してきてしまった悔しさの滲む歌などが並ぶ中、この歌会の一連は、掛け値なしに明るい。

 

とあります。

 

 鑑賞文の前半では、タクシー運転手さんの実家が福島から鹿児島になった事情が書かれています。記事の日付は2012年の3月7日でした。

 

 

動画には蝉の鳴き声 僕たちは餓死するだろう清潔な都市で (yuifall)

 

Fear for Nobody (Måneskin) 和訳

洋楽和訳の注意書きです。

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Fear for Nobody (Måneskin)

Songwriters: Thomas Raggi, Victoria De Angelis, Ethan Torchio, David Damiano

www.youtube.com

I don't have fear, I will survive

And I've been begging and begging myself

"Please don't close your eyes"

I don't have tears, I cried it all

I heard a voice that's inside me

She says, "Please take what you want"

 

And I've been begging you, begging you

"Please show me, please show me"

Why am I begging you, begging you?

"Please show me, please show me"

Why am I begging you, begging you?

"Please show me, please show me"

Why am I begging you, begging you? But

 

I have no fear for no—

I have no fear for nobody

I have no fear for nobody

I have no fear for nobody, nobody now

I have no fear for nobody

I have no fear for nobody

I have no fear for nobody, nobody now

 

I'm staying here and I'm not lying

And I've been beating and beating on my chest

I'm ready to fight

It's not a dream, this is the truth

This is my story and I count it

We don't give a fuck 'bout you

 

And I've been begging you, begging you

"Please show me, please show me"

Why am I begging you, begging you?

"Please show me, please show me"

Why am I begging you, begging you?

"Please show me, please show me"

Why am I begging you, begging you? But

 

I have no fear for no—

I have no fear for nobody

I have no fear for nobody

I have no fear for nobody, nobody now

I have no fear for nobody

I have no fear for nobody

I have no fear for nobody, nobody

 

'Cause I'm begging you, begging you

"Please show me, please show me"

Why am I begging you, begging you?

"Please show me, please show me"

Why am I begging you, begging you?

"Please show me, please show me"

Why am I begging you, begging you?

"Please show me, please show me"

Why am I begging you, begging you?

"Please show me, please show me"

Why am I begging you, begging you?

"Please show me, please show me"

Why am I begging you, begging you?

"Please show me, please show me"

Why am I begging you, begging you? But

 

I have no fear for nobody

I have no fear for nobody

I have no fear for nobody, nobody now

I have no fear for nobody

I have no fear for nobody

I have no fear for nobody, nobody now

 

 

直訳

 

I don't have fear, I will survive

恐れてはいない、僕は生き延びるだろう

And I've been begging and begging myself

そして僕は希い続ける、希い続ける、自分自身に

"Please don't close your eyes"

「お願いだ、目を閉じないでくれ」

I don't have tears, I cried it all

涙はない、僕は泣いた

I heard a voice that's inside me

自分の内側の声を聞いた

She says, "Please take what you want"

彼女は言う、「あなたの欲しいものを取って」

 

And I've been begging you, begging you

僕はずっときみに希い続けてきた

"Please show me, please show me"

「お願いだから見せてくれ」

Why am I begging you, begging you?

どうして僕はずっときみに希っているんだろう?

"Please show me, please show me"

「お願いだから見せてくれ」

 

I have no fear for nobody

僕は誰も恐れてはいない

I have no fear for nobody, nobody now

僕は今誰も恐れてはいない

 

I'm staying here and I'm not lying

僕はここにいるし、嘘をついてはいない

And I've been beating and beating on my chest

ずっと胸を打ち続けてきた

I'm ready to fight

戦う準備はできている

It's not a dream, this is the truth

これは夢じゃない、真実なんだ

This is my story and I count it

これは僕の物語で、大事なことだ

We don't give a fuck 'bout you

きみのことなんて僕たちは気にしちゃいないよ

 

 

意訳

 

怖いものはない、私は生き残る

自分自身に懇願しつづけている

「お願いだから目を閉じないで」

涙はない、泣きつくしたから

内なる声を聞いた

彼女曰く、「欲しいものを取ってよ」

 

ずっとあなたに懇願しつづけてきた

「お願いだから見せて」と

どうしてそんなことをしているのだろう

「お願いだから見せて」だなんて

どうしてそんなことをしているのだろう

「お願いだから見せて」だなんて

どうして懇願しつづけているのだろう

でも

 

何も

誰も恐れてはいない

私は誰も恐れない

私は誰も恐れない、もう誰も

誰も恐れてはいない

私は誰も恐れない

私は誰も恐れない、もう誰も

 

私はここにいて、嘘をついてはいない

ずっと胸を打ち続けてきた

闘う準備はできている

これは夢じゃなく真実

これは私の物語で、大切なこと

あなたのことなんてどうでもいいよ

 

ずっとあなたに懇願しつづけてきた

「お願いだから見せて」と

どうしてそんなことをしているのだろう

「お願いだから見せて」だなんて

どうしてそんなことをしているのだろう

「お願いだから見せて」だなんて

どうして懇願しつづけているのだろう

でも

 

何も

誰も恐れてはいない

私は誰も恐れない

私は誰も恐れない、もう誰も

誰も恐れてはいない

私は誰も恐れない

私は誰も恐れない、もう誰も

 

だってずっとあなたに懇願しつづけてきた

「お願いだから見せて」と

どうしてそんなことをしているのだろう

「お願いだから見せて」だなんて

どうしてそんなことをしているのだろう

「お願いだから見せて」だなんて

どうして懇願しつづけているのだろう

でも

 

何も

誰も恐れてはいない

私は誰も恐れない

私は誰も恐れない、もう誰も

誰も恐れてはいない

私は誰も恐れない

私は誰も恐れない、もう誰も

 

 

yuifall.hatenablog.com

わたしはずるい (奥村愛子)

邦楽歌詞感想の注意書きです。

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わたしはずるい (奥村愛子 2005年

作詞作曲:奥村愛子

www.youtube.com

ジュンコ、ヨウコ、ナツコ、クミコ、ヒロミ、アユミ、カオリ、ハルカ

誰もきっとわたしよりは賢い女

 

あなたが思っているよりも

ずっとわたしはずるい

試してみようと力を抜いた

すごくわたしはずるい

あなたも少しずるい

さよならを笑うなんて

 

 奥村愛子の曲は2000年代とは思えないほど昭和歌謡です。情念籠ってる感。これは、いわゆるプレイボーイに本気で恋してしまった女性の歌ですかね。

(多分違うと思うけど)すごく深読みすると、この主人公の女性には他に好きな男性がいたようにも見えます。で、その人に振られて、彼を忘れるためにプレイボーイと遊ぶわけ。まあそうじゃなくても、最初はこの人に本気じゃなくて、ただ経験してみたいとかそういう適当な理由だったかもしれない。彼はそばにいたらいい気分にさせてくれるイケメンで、絶対夢中にはならない相手。である程度時間が経ったところで試し行為のつもりで「そんなに他に女の子いるんなら私はいいよね?さよなら」と言ってみたところ、「確かにもうそろそろいいかな」ってなって笑って別れを告げられる。「わたし」はすでに彼を好きになっているんだけど、彼は最初から自分のものにはならない相手だということも、重たくしても意味ないのも分かってて、「笑ってきえてあげる」と。

 

 この「さよならを笑うなんて」ってフレーズがめちゃくちゃ好きで心に残ります。あとはサビの女性名連呼のインパクトがすごい。

 

幾人にも愛を分かつと言いきりし彼の時の君を憎み得ざりき (三国玲子)

 

という短歌を思い出しました。

 

 

笑わずにせめて詰ってほしかったずるい女できえてあげるわ  (yuifall)

 

「一首鑑賞」-336

「一首鑑賞」の注意書きです。

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336.戸棚よりコーヒーカップ取り出しぬそつと世界のどこかに置かむと

 (香川ヒサ)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで澤村斉美が紹介していました。

sunagoya.com

「世界のどこかに置く」という言い方が面白いです。確かにそれはそうなんですが。これも一種の「セカイ系」なんだろうか?私が直接世界に接続している感。戸棚の中にある間は戸棚なのに、出されたとたん急に「世界」になっているのが、なんというかアハ体験みたいな面白さがありました。

 世界って言葉はとても概念的ですよね。物理的なものとも、精神的なこととも読めます。多分最初はキッチンに置いて、コーヒーを注いだらまた手に持って、テーブルかデスクにまた置かれるんだろうなと思う。でもその間ずっと「世界のどこかに」置いてあるんだとも思います。もしかしたら手に持っている時ですらそうかもしれない。戸棚に戻ったらどうなんだろう。

 考えると面白くて止まんなくなりますね。

 

コーヒーカップを取り出すという日常の何気ない行為が、哲学的な問いへと鮮やかに転換される下句だ。

 

と、鑑賞文にはありました。哲学的な問いって言葉かっこいいなぁ。

 

 

はじめから私の中にあったこと濡れた瞳のエピジェネティクス (yuifall)

 

 

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読書日記 2025年5月21-27日

2025年5月21-27日

アッティカ・ロック(高山真由美訳)『ブルーバード・ブルーバード』

・ディーリア・オーエンズ(友廣純訳)『ザリガニの鳴くところ』

藤巻忠俊黒子のバスケ』1-30巻

・永井祐『日本の中でたのしく暮らす』

 

以下コメント・ネタバレあり

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