「一首鑑賞」の注意書きです。
257.花束をかかえた君は手を振れずさよならにただうなずいていた
(木下龍也)
砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで門脇篤史が紹介していました。
いいなって思ってリンク開いたら木下龍也の歌でした。やっぱ好きです。キャッチーですよね。情景が鮮やかに浮かぶし、心情まで想像できるような気がする。「花束」を渡すんだからそれほど切迫した状況ではなくて、お互いにまだ愛情はあって、でもきっぱりと決別する感じ。まあ、会社の送別会説もありますが、あまり散文的すぎる読み方は置いておいて…。きっとこっちは手を振っていて、「君」は手を振り返すことができない。「さよなら」「うん」、って、振り返りながら遠ざかっていく感じ。「君」が振り返るたびに手を振るんです。
鑑賞文を読んでみると、これは『あなたのための短歌集』の一首で、依頼者から題をもらってその人のための歌を詠む、という試みだそうです。鑑賞文には
掲出歌は、「自分の名前でもある「花」で短歌をお願いします。」というお題のもと作成されたという。
お題を読み、一首を読み直すと、「花束」には依頼者の名前というニュアンスが加わる。素敵な名前を受け取った生まれる前の「君」は、まだ手を振ることはできず、これから「花」の名を持ち生まれていく。そんな「君」へかけられるさよならの声に、これから生まれゆく「君」は、ただ頷いている…そんな超現実的な場面が想起されもする。
とあります。
「生まれてくる」君に「さよなら」を言うかなぁ、という感もありますが、「花」が名前だというのは意外でした。そう考えるとやはり「花束をかかえた君」は、「花という名前を持った君」なんだろうなと。だから両手いっぱいに抱えているのは、自分自身の業というか、自分として生まれてきた運命のようなものなのかもしれません。
手錠よりジップタイよりその声が私を縛る “I can hear you.”(聞こえているわ) (yuifall)
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