「一首鑑賞」の注意書きです。
184.ホットケーキ持たせて夫送り出すホットケーキは涙が拭ける
(雪舟えま)
砂子屋書房「一首鑑賞」で井上法子が取り上げていました。
この歌しみじみいいですよね…。ホットケーキは甘くて柔らかくて丸くて大きくて黄色くて、どんな傷からも守ってくれる感じがする。しかもふわふわで、「涙も拭ける」。「ホットケーキは涙が拭ける」って下の句が最高にいいです。
夫への優しさとか思いやりだけじゃなくて、涙が出るような辛い現実に送り出すんだ、っていう決意みたいなものが伝わってきて好きでした。私は一緒には行けないけど、このホットケーキで涙を拭いてね、って。(食べて元気出してね、と変換してもよいのですが…)
井上法子の鑑賞文もとてもよかったです。実際に「ほんとうに元気がなくなってしまった」頃、自分で焼いて冷凍していたホットケーキを食べていたこと。その時、この歌を口ずさんでいたこと。
2020年11月に発売された『ビッグイシュー』No.394の短歌特集で、山田航さん、木下龍也さんとご一緒したとき、
木下さんが、短歌は「口ずさめる“お守り”」であると書いてらして、なるほどなぁと思ったのですが、
この歌はわたしにとって、(そしてきっと、わたし以外のたくさんのひとびとにとっての)「お守り」で、
こころのうちにそっと仕舞っているだけで、思い起こしたときに、ホットケーキのほかほかが身のうちにひそんでいるような、温かい心持ちのする。
(ちなみに、山田航さんは「平等なコミュニケーションの土台、それが短歌だった」、井上は短歌を「世界を引き寄せる透きとおった水べのようなもの」と書いていました)
木下龍也の「口ずさめる“お守り”」という表現、とてもいいですね。山田航の言うこともなんとなく分かります。いや、私の実感としては分からないのですが、『桜前線開架宣言』を読んでいて、きっと山田航にとって短歌はそういうものなんだろう、というのは分かる。井上法子の言葉も私には分からないけど、彼女にとってはそうなのかも、というのは歌でなんとなく感じます。
なんかホットケーキ食べたくなったな。そして、自分が辛い時心の中にあった歌のことを考えました。
“生まれたくなかった”きみに差し出せる詩はある僕のものでなくても (yuifall)
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