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「一首鑑賞」-75

「一首鑑賞」の注意書きです。

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75.ほんたうにアホだしいいやつだと思ふ「寄り寝」一語に大喜びで

 (田口綾子)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」で生沼義朗が紹介していた歌です。

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 これは鑑賞文を読む前にどういう状況か想像しながら読んだのですが、概ね同じことを考えていて面白かった。つまり作者は多分中学校の国語の先生で、「ほんとうにアホだしいいやつ」なのは生徒なわけです。で、おそらく古文の授業で「寄り寝」って言葉が出て来て、当時の言葉(今も?)で「寝る」って言ったらそういうことですから、その一語だけで大騒ぎになっちゃう。だから「アホ」って思いながらも、クラスの雰囲気をいつも明るくしてくれる「いいやつ」だとも思っているんだろうな、と。

 

 こんな風に、たった31文字で状況やこの子の人格までも想像させられる歌、本当にいいなって思いながら読みました。鑑賞文でも「田口は短歌で人物を描くのが上手い」と評されています。花山多佳子の歌もそうですが、自分の内面をぐちゃぐちゃと描くのではなく、相対する他人をうまく描写する短歌ってすごく憧れます。生き生きしてるし、作者も人間が好きなんだなって感じてすごく好感を持てる。

 

歌集の掉尾に置かれた「闇鍋記」一連も、人物(特に服部真里子)がよく描けている。この描写力は田口の歌人としての強みであることは間違いない。

 

と書いてあり、「闇鍋記」読んでみたいなーと思いました。

 

 他にも何首か引用されているのですが、

 

それはいい質問ですが脚注を見ないおまへにカノジョがゐない

 

空欄(しろ)に×(あか)、あはれむやみにあかるくて授業内容をわれはうたがふ

 

って面白すぎるな。「それはいい質問です」は池上彰のパロディだろうし、「脚注見れば書いてあることを聞くなよ」っていう思いが言外にひしひしと伝わってきて笑えます。下の歌は

 

雪に傘、あはれむやみにあかるくて生きて負ふ苦をわれはうたがふ

(小池光)

 

本歌取りでしょうが、この歌自体が

 

行きて負ふかなしみぞここ鳥髪(とりかみ)に雪降るさらば明日も降りなむ

(山中千恵子)

 

本歌取りであったことを花山周子の一首鑑賞コラムから知って驚きました。

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 それにしても、「本歌」2首と比較して本歌取りの歌の内容は馬鹿馬鹿しく、これでこそパロディ!と思って嬉しくなってしまいました(笑)。テストの解答が空欄で×をつけるしかなく、授業内容が悪かったのかしら、と思っている歌ですよね。「あはれむやみにあかるくて」が、元歌と全く同じ言葉なのに笑える文脈になっていて、笑いながらも感心してしまった。

 

 

乳腺の機能を問へば医学生吸ふ息一つぶん躊躇ひぬ (yuifall)