いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

「一首鑑賞」-7

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

7.発音をせぬKの文字 ナイフもておのがいのちを裁ちし男よ

 (本田一弘)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」で三井修が紹介していた歌です。

sunagoya.com

 この歌で連想される「男」って、たった一人じゃないでしょうか。襖に血を迸らせて死んでいた、「K」です。夏目漱石の『こころ』です。「発音をせぬKの文字」というのは、knifeの「K」のことかと思います。鑑賞文には、

 

男の自殺の理由はこの作品では説明されていないが、深い事情があったのであろう。「脱落」にしろ「不要」にしろ、「発音をしないKの文字」はその男の人生の比喩のようにも思えてならない。そしてその男はまさにそのナイフを自分の命を絶つ道具として選択したのだ。自殺した男にそのことの意識があったとは思えないが、何とも皮肉なことである。

 

とあり、『こころ』については触れられていないので、私の読み方はもしかしたら深読みなのかもしれません。でも、「こころ K」でググるとKの自殺の理由を考察する多数のサイトに行きつく中、「発音をせぬKの文字」というひらめきから「脱落」「不要」という考察を導き出すのも面白いなって思いました。

 

 というのも、夏目漱石はイギリス留学していて英語の素養があったはずで、当然knifeという単語も、「K」を発音しないことも知っていたはず。『こころ』では友人の名前が語られず、イニシャルの「K」として終始登場しますが、これはもしかしたら実在の誰かがモデルだったのかもしれないけど、でもknifeの発音しない「K」だった、と考えても面白いですよね。自殺も、首吊りとか飛び降りとかではなくて「襖に血が飛び散っている」わけだから、刃物を使っていることが示唆されています。包丁なのか刀なのか何なのかは分かりませんが、英語で言うとknifeかなと。この単語見た日本人なら「なんでK読まないんだよ!」って思うはずで、夏目漱石もそう思ったんじゃないかなぁ。

 それで「K」になったっていうのはちょっと考えすぎかもしれませんが、少なくともこの歌の作者は、knifeのKと『こころ』の「K」を重ねてこの歌を作ったのではないだろうかと感じた歌でした。

 

 

AWSOMEにMEがいるでしょ、とりあえず洟かんで顔冷やして寝なよ (yuifall)

* ME! (Taylor Swift)

yuifall.hatenablog.com

 

現代歌人ファイル その160-本田一弘 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ