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現代歌人ファイル その201-田村元 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

田村元 

bokutachi.hatenadiary.jp

靄かかる北大演習農場を歩めり何を探すでもなく

 

春怒濤とどろく海へ迫り出せり半島のごときわれの〈過剰〉が

 

 『桜前線開架宣言』でサラリーマン歌人として登場した人ですが、群馬県出身で北大法学部卒みたいです。解説には

 

大学の進学程度ではその地に骨を埋める意志にはつながらなかっただろうが、わざわざ「北上」をすることは何らの理由もなくは行われない。地理的に近い東京ではなく北海道の大学を選ぶこと。それには何らかの〈過剰〉を持て余す精神があっただろう。

 

とありますが、この歌の「われの<過剰>」って何のことだったんだろうな。

 しかしながら、大学を選ぶ際、みんなそんなに熟考してますかね。高3の時に決めることだしなー。「学部」についてはわりと熟考するかもしれないけど、「大学」はどうですかね。「学びたい研究室がある」っていう理由よりは、試験の難易度とか受験の内容とか共通試験と二次の点数比重とかで決めている人が多い気がする。

 なので正直強い動機があって「北上」したかどうかということはよく分かりません。まあ、でも、リアル知り合いで獣医さんになりたくて北海道の大学に行った人いるし、学びたいことやその他色々な動機があって特定の大学を選ぶという人ももちろんいるとは思います。時計台見て京大行きたいと思った人とか赤門見て東大行きたいと思った人とかとにかく東京の医大に行きたくて医科歯科大に入った人とかも知り合いにはいますね。だから何らかの〈過剰〉がその動機としてあったのかもしれない。

 どちらにせよ、青春を過ごした北海道、札幌に対する思い入れは感じられます。歌集タイトルも『北二十二条西七丁目』だそうです。「骨を埋める意志につながらなかった」のは、家庭の事情とか色々あるだろうし、歌の内容からは札幌愛がないってわけじゃない気がします。

 北大キャンパス綺麗だよね!散歩しているだけで幸せな気持ちになります。そして大学時代っていう背景がはっきり分かる歌を読むのも好きです。

 

弘前の桜を咲かせゐるころか前線はきみへと北上しつつ

 

 就職して東京に来てから、北海道に残してきた恋人を思う歌みたいです。弘前城の桜まつりってGWの頃なんですね。「桜」が卒業、別れの象徴になる地域と、入学、出会いの象徴になる地域では桜への思いも違うような感じがします。

 多分、この人は群馬出身だからもともとは桜といえば別れの季節なイメージで、桜が散る頃北海道へ行き、もう新入生歓迎会も終わった5月頃にまた桜と出会って驚いたのではないだろうか。そして今度は卒業して、未だ桜の咲かない札幌からすでに桜の散った東京へ引っ越して、5月頃になって「彼女のいる札幌ではそろそろ桜が咲くころだ」って思っているのかなって。

 

Die Welt(世界)とは女性名詞であることをかなしみにけり飲食(おんじき)の後(のち)

 

 これを読んで、19世紀最もスキャンダラスな絵画と言われたギュスターヴ・クールベの『世界の起源』を思い浮かべました。世界が女性名詞なことが、なんで「かなしみにけり」と思ったんだろうか。これは私には分かりません。そしてドイツ語文法も全く分かりません(笑)。

 

 解説にもありますが、飲食の歌が多いみたいで、たくさん引用されています。

 

二十代過ぎてしまへり「取りあへずビール」ばかりを頼み続けて

 

〈こだいこ〉のラーメンわれら啜りつつ三十代はぽんぽこである

 

サラリーマン塚本邦雄も同僚と食べただらうか日替ランチ

 

 面白いですね。塚本邦雄って歌人としてしか知らなかったのですが、先ほどWikipediaで調べたら

 

卒業後、又一株式会社(現三菱商事RtMジャパン)に勤務しながら、兄・塚本春雄の影響で作歌を始める。

 

と書いてありました。歌人として名を立ててからも勤め続けていたみたいで、

 

(1954年に罹患し、2年間療養した)結核回復後も商社勤務を続け、1956年に第二歌集『裝飾樂句(カデンツァ)』、1958年に第三歌集『日本人靈歌』を上梓。

 

だそうです。

 あの耽美な作風と「サラリーマン」という単語が結びつかず、でもなんかすごいときめいた。自由人よりインテリが好きだから(笑)。「サラリーマン塚本邦雄」も社食で同僚と日替わりランチ食べたんでしょうかね?この想像力面白いですね。

 

 飲食の歌、って思って色々考えたのですが、もうコロナ禍で誰かと外食とか微妙な雰囲気になって長いし、今はどんな「サラリーマン短歌」詠んでいるのかなあ。今風にリモートワークでお家ご飯なのか、やっぱり通勤電車に乗って帰りに一杯なのか、って思いました。

 

 

進撃の巨人も食べて吐くかもね下水に浮かぶぼくの耳たぶ (yuifall)

 

 

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