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現代歌人ファイル その65-中川宏子 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

中川宏子 

bokutachi.hatenadiary.jp

ゆつくりと梨をフォークで刺すしぐさこの微妙さが松下製デス

 

 おもしろーい(笑)。この連作「テレスコープ」は自分は主婦型ロボットで、ロボットの世界に生きてるという設定のようです。苦手な人とすれちがえばスイッチオフして会釈し、マックの店員はみち子二号(笑)。

 2007年の歌集らしいんですが、「松下製」か…。正式に「Panasonic」になったのは2008年のことらしいですね。なんか今となっては科学技術も他国に押されてて「絶妙さが松下製(Made in Japan)」って感じも薄れてしまい残念です。

 

敬語からタメぐちになるタイミング少しずれてる 台風がくる

 

 これとか、ママ友っぽいですね。今まで年齢とか学年とか上司―部下みたいな上下関係で敬語とタメぐち使い分けてたのが、子供の年齢が一緒、っていうくくりだけでまとめられた集団内で、年齢も人生経験も性格も不一致な人たちが敬語からタメぐちになるタイミングをつかみかねる、みたいな感じです。前後の歌からすると、恋の歌っぽい感じはしないんだよなー。今まで上司とか先輩とかで敬語使ってた相手と付き合うことになって…みたいな甘酸っぱい感じではない(笑)。

 

 一般主婦みたいな歌が多く紹介されているんですが、今までそういう歌詠む人って逆にあんまり見たことなかったのですごく新鮮です。確かにロボットとかの非現実な世界観を混ぜて来てはいるのですが、生活感に満ち溢れた「単調な」日常を切り取って歌を作れるの、すごいなって。

 

ドラマ見て笑つては泣く単調な日々のすきまに挿す体温計

 

日常は負より始まる 掃除にて0(ゼロ)に戻せばほんとに独りだ

 

またけふも息をしないで生きてゐる(そんな感じの)平和な世界

 

こういう歌、本当に目の前にリアルに存在している日常生活を歌にするって逆にすごく難しいと思います。恋とか子育てとかで心が揺さぶられている瞬間じゃないわけだから。

 

 

信号に立ち止まる人みな生きたからうと思(も)へば不思議なる春

 

 その一方で、「自殺した兄」という存在があるらしく、信号に立ち止まるのは生きたいからだ、というこの歌にははっとしました。短歌を読んでいて、時々すごいパラダイムシフトが起こることがあって、そういう感覚を与えてくれる歌ってすごいなと思います。

 だけど、信号で立ち止まらなかった場合、自分が死ぬだけじゃなくて、必ず「殺す」側になる人がいるんだよな、っていつも思う。ドラマとかで、いわゆるデウスエクスマキナ的展開で、重要人物がトラックとかにどんって追突して死んだりする展開ありますけど、これ、轢いた人からするとたまったもんじゃねーよっていつも考えてしまいます。交通事故加害者やん。人生180度変わってしまうわ。鉄道自殺とかもさー、轢いた運転手だったらトラウマもんだよ。信号で立ち止まるのは生きたいからじゃなく、倫理だと思うよ。誰かに自分を殺させてはいけないよ。

 

 

パイプ椅子会話は全て遠かりき量産型でゐたくうつむく (yuifall)