山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
坂原八津
きみならばこの笛の音にたちどまる ずるいなこんなボールの投げ方
普通にかわいいなー、「ずるいボールの投げ方」ってどんななんだろう、と思ってぼんやり読んでいたら、解説に
これらの歌には、ライトヴァースの口語短歌が持っている体温のぬくもりやあたたかさといったものがまるで感じられない。やわらかい口語で綴られているにもかかわらず、ひやりとした感触が消えない。
とあってびっくりした。そうなんか…。そこまで冷たい感じしなかったな…。
いのちとはいえないたまご朝毎にいのちのように割られて落ちる
こういう歌、「乾いたリアリストの視点」と評されているのですが、私はこの人の歌からはそんなに冷たい感じは受けなかったなぁ。解説には
坂原が生と死という問題から投げかけるテーゼはいたってクールだ。生きるとは殺すことで、死ぬとは殺されること。そういった乾いたリアリストの視点がぶれない。薬学部出身ということで、職業上でも生物に触れる機会が多いのかもしれない。クローン羊をテーマにした歌などもあるが、人間が手触れることの許されない「いのちの領域」の存在を認めているのだろうか。
とあります。
振り返りにっこり笑い答えようたかが遺伝子ひつじはひつじ
指先から飛び交う言葉 信号に変わってめぐる 人の訃報も
殺し合うヒトとウィルス殺し合う人間たちの無言の連鎖
葉柳に幽霊が立つ生きているものがこわいと言ったはずだよ
こういう言葉はどれも私自身の感覚にとても近いので、「冷厳さ」は感じなかった。そうだよねー、くらいな感じ…。
どこまでも嘘を続ける ほほえんできみの記憶に降りていくとき
この歌とか好きだな。記憶って嘘ばっかりなんだよね。『藪の中』(芥川龍之介)みたいな、人の視点によって微妙に内容が食い違っている話がとても好きです。面白いなって思います。
痙攣を告げる電話に目覚めれば並ぶ棺の上ひとりきり (yuifall)