山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
水上比呂美
アイラインぬれぬれと引く美少女はサトイモ科アンスリウムの族(うから)
この歌どこかで見たような気がするんですが、思い出せません。何かの本歌取り?調べてみたんですがピンときませんでした。
この人の歌は全体的に捉えどころのない感じがするのですが、解説が面白かったです。
初めて水上比呂美の名に注目したのは、2007年の角川短歌賞にて最終候補となった「美男な鰐」である。誌面に全作品が載ったわけではないのだが、ペットショップで出会った美男の鰐と同棲を始めやがて殺害に至るというミステリアスな筋立てを短歌連作で表現していたことに興味を抱いた。そしてこの連作、歌集ではなんと長歌として再構成されている。
かなり気になって「美男な鰐」ググったのですが引っかからず…。でも、角川短歌賞最終候補ということは、該当雑誌の古本を手に入れれば全作品でなくても読めるんですね。歌集を手に入れて長歌を読むべきか…。
ちなみにこの記事に「美男な鰐」からの引用はありませんでした。引用されているのは現代渋谷と古代がリンクする連作「ひひる」から、
ルリタテハ青年が行き胴太きヤママユ婦人が行く交差点
古き世の蛾の名「ひひる」とつぶやけばくびすぢしろき伯母が顕ち来ぬ
や、社会詠、政治詠
クーラーも冷蔵庫もないあのころの方が今よりすずしかつたね
昭和二十六年発行の母子手帳「妊婦用砂糖券交付」の記載あり
などです。
また、「もち肌ロボット」「子どもロボット」という連作もあるようで、
アトムとはまるで似てないリー・マンは空は飛べぬがもち肌である
いづこかできつと開発されをらむかはいい子どもの殺人ロボット
なんかが紹介されています。
リー・マンは実在する介護ロボットのようで、オフィシャルサイトもありましたが結構かわいかったです(笑)。
サイトのどことなく昔っぽい素朴な感じといい、殺人ロボットとはかけ離れた感じです。どうして「殺し」のモチーフになるのかなぁ、って思ったのですが、やっぱりロボットに命を預けることへの畏れのようなものがあるのだろうか。そういう読み方は単純すぎるでしょうか。介護もロボットなら殺人もロボットで、っていうディストピア的世界観というか。解説にも、
ロボットについての連作を2つも作るほど妙な執着を見せているのは、科学技術への興味からではなく、生命倫理に対する意識規範のせいだろう。(中略)効率化の名のもとに「役に立たない」いろいろなものが削除されてゆく現代社会全体に「殺し」の気配を覚えながら、同時に破滅の美学にも浸る。その二律背反の矛盾を歌にこめている歌人であるように思う。
とあります。
AI開発について書かれた本を読んだりするのですが、AIは最小限の労力で結果に辿り着こうとするので、適切な命令を入力しないで問題解決だけを丸投げすると、「その問題を解決するには問題ごと消滅させればいい」みたいな結論になってしまうんだそうです。だから漠然と「介護大変だなー」みたいに問題提示をしてしまうと、「じゃあみんな死ねば解決!」みたいな結論になっちゃうんだろうなぁって。そういう危うさを直感的に幻視していたのかなと思いながら読みました。
「カッパドキアは実在の地名です」 手書きされたる昭和のカルテ (yuifall)