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現代歌人ファイル その66-吉田純 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

吉田純 

bokutachi.hatenadiary.jp

侵略史の顔ぶれのみが愛されて――日本銀行券収集家

 

 この歌、めっちゃ面白いと思った。「日本銀行券収集家」ですよ?ブルジョアジーをこんな言葉で表現するなんて素直に感嘆したわ。単に貯金が趣味の人の可能性もありますが(収集するだけで使わないっつーか)、やっぱりブルジョア批判と思って読んだ方が面白いですね。好きな海外ドラマ(Person of Interest)で、若くして成功したトレーダーが1ドル札を200ドルずつ束にして靴箱にぎっしりつめていくつも置いてるシーン思い出した。

 

 やたら漢字を多く使った歌が多いのですが、塚本邦雄をはじめとする前衛短歌の影響だとか…。ここしばらく塚本邦雄の影響シリーズ多いですね。実際たくさんの歌人に影響を与えてる人なんだろうな。それにしても

 

前衛短歌もはや還暦近し 炬燵に眠る蝙蝠傘(こうもり)ひとつ

 

って面白いなー。解説には

 

歌集巻末の本人の手による跋文は、とても力の入った言挙げが並んでいる。短歌とは「日本人の遺書」であり、私は「前衛短歌の私生児」として瓦礫だらけの道のりを歩きださなくてはならないと宣言されている。いまどき少しアナクロ的ではないかとすら感じるほどの熱さである。

 

とあります。1976年生まれであることを考えると確かにちょっとアナクロ的な熱さと言えなくもないですね…。「前衛短歌の私生児」かぁ。自分を「私生児」と思っているからかどうかは分かりませんが、ミソジニー的な歌も散見されます。

 

終末を生き延びている無様さに何を憎まん女よりほか

 

いつまでも扉を叩くようにして僕は子宮にとどこうとする

 

きつつきのごとき男よ 変えられぬ終末のためじっと手を見よ

 

 こういう歌読むと、なんか、男の人も大変だなぁ…って思ってしまいます。肉体的に、あるいは本能的に女性に惹かれる一方で、そのことを精神的には受け入れられてないんじゃないかというような感じしました。女に生かされてしまっているから無様で憎いのかなって。これは女性にはあまりない感覚じゃないかなぁ。精神的に受け入れられない男性に肉体的に惹かれるってことはまずないし…。

 この「終末」というのは何なんでしょうね。アナクロ的な世界観から考えると、”SEKAI NO OWARI”みたいなサブカル的な感覚ではなく、もっと「もう日本人は終わりだ…」みたいなナショナリズムの方向性が連想されます。

 

純血種短命なりという論理 犬も 帝(みかど)も ナショナリズム

 

 こんな歌もあります。確かに雑種の方が強いし、生物は多様性によって生き抜いてきたわけだし、日本の「純血種」信仰、同調圧力はかなり生きにくく、このままいくと国際社会では取り残されるのではないかとは常々思う(すでに色々と取り残されていると言えなくもないですが…)。その一方で、じゃあ「純血」であること、「同一」であることを全く放棄した場合、ナショナリズムっていうのは何なんだろう?とも思います。国家のアイデンティティって何なんだろうか。

 

 

腥き墓としてのみある我に汝が憎しみは届き得ざりき (yuifall)