山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
飯田有子
純粋悪夢再生機鳴るたそがれのあたしあなたの唾がきらい
この歌はスガシカオの『アイタイ』に似てるなー。「あなたの唾がきらい」なのにキスしてんだよ。あー、粘膜とか気持ち悪い、って思いながらセックスしてんの。多分、ご飯食べるのもきらいだしロマンスもきらいなんだろうな。解説には「少女期独特の過剰な潔癖さ」とありますが、この感覚は分かる気がします。内臓的なるものが全て嫌なんだよね。自分の中から血が出ることが許せなかったり。
なんかこの歌の「純粋悪夢再生機」に、ホラー映画『リング』とかに出てきそうな、無声でモノクロの映像を連想しました。
たすけて枝毛姉さんたすけて西川毛布のタグたすけて夜中になで回す顔
この「夜中になで回す顔」って、「枝毛姉さん」の顔なのかな?それとも自分の顔?全然違う誰かの顔?解説には
おぞましいものにまで助けを求めようとする切迫した世界観は、精神に来るタイプのホラー映画のようである。
とあるのですが、意味がよく分かりませんでした。夜中に何でもいいから助けを求めたくなる、という切迫した状況と一般化してとらえてもいいのでしょうか。それともそんなつまらない読みは許されないのでしょうか…。なんかすごい有名な歌みたいなのですが…。
さるぐつわあたしにかける手の甲のにおいでぜったい見分けてあげる
「さるぐつわ」なんで全然違うんですけど、キスしてリップクリームのフレイバーを当てるゲームあったような…と思ってググったら男同士の動画ばっかりヒットして驚愕した。しかしこの場合「見分ける」必要があるのだから、「さるぐつわ」をかけてくる候補は複数いるということか?だって「だーれだ♡」系って、こんなことやるやつお前しかおらんやろ、ってのが前提じゃねーの(笑)?
なんかどうもこれ系の歌に対して自分の向き合い方が真剣さに欠けますね…。くだらない連想しか浮かんでこないわ…。仕方ないので素晴らしい解説をご覧ください(笑)。
飯田の歌は次から次へと悪夢ばかり映し出す映写機のようである。そしてそれは悪意から生まれてくるものではない。「たすけて」というとてつもなく純粋な叫びが根底にあるのだ。思春期前後の少女の潔癖と孤独をグロテスクともいえる方法で切り取った手腕は、実に鮮やかなものであるといえる。
それにしても、(歌集の中ではどうか分からないのですが)ここで紹介されている歌はいずれも未成年の女の子がイメージされる内容です。中澤系と同じで、ある年代で出会っていたらすっごく刺さったんだろうなーと思う反面、今現在の感性では刺さってこないのが悲しいな…。「思春期前後」、要は中二の痛みなんですよ…。言葉がピュアすぎて、すでに若くない自分には読むのがつらいです。こういう歌を大人になってから詠めるのがすごいなって思うけど、詠み続けるのは難しいんじゃないかなって気もします。『林檎貫通式』以降はどういう歌を詠んでいるのか、気になる歌人です。
発車ベル鳴っているのに出られない櫛にごっそり抜けた黒髪 (yuifall)