書肆侃侃房 出版 東直子・佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。
大辻隆弘
指からめあふとき風の谿は見ゆ ひざのちからを抜いてごらんよ
以前読んだ、俵万智の「あなたと読む恋の歌百首」という本で紹介されていて、すごくロマンチックだなと思った歌です。そしてこの人が他にどんな歌を詠んでいるのだろうと思ってアンソロジー見た中に、
紐育空爆之図の壮快よ、われらかく長くながく待ちゐき
というものがあって、正直目を疑って何度も読み返しました。衝撃でした。
とっさに考えたのは、この人の背景には何があるのだろう、ということです。「紐育空爆之図」っていうのは会田誠の絵画のようですが、この作品はあきらかに同時多発テロを示唆してますよね。発表当時ものすごいバッシングにあったそうで、そりゃそうだなと思う一方で、でも発表前から分かってただろうに、それでもどうしてもこの作品を世に出したいとこの人を駆り立てさせたものは何なんだろうと考えました。第二次世界大戦の敗戦とか、全共闘なんかと関係があるのか?宗教的背景があるのか?アメリカの身勝手さに苛立っているの?
だけど、この時考えて気づいたのは、私はあのテロ事件の背景とか経緯についてあまりにも無知であるということです。なので、一体どんな思想のもとにこの歌が生まれうるのか分からない。そして、もしかしたらこの歌の背景にあるのは、そういった無知への問題提起なのではないかと考えました。つまり、「お前は壮快だと感じなかったか」、という、鋭い言葉のナイフだと。ハリウッド映画みたいに、シン・ゴジラが見知った街を破壊しているのを見て喜ぶみたいに、遠くのフィクションだと感じていないか、と、問い詰められているのではないかと感じました。そうした時、逆説的ですが、全く見ず知らずの、あそこで亡くなった人、そのご遺族の存在を身近に感じ、少し祈りました。これほど人を立ち止まらせ、よかれ悪しかれ何かを語らせたくなる歌を知りません。多分たくさんの議論がなされただろうし、考証もされたのでしょうが、全く何も知らず書いた感想なので的外れかもしれません。でも、誰にでも何らかの感情を呼び起こさせる歌だろうと感じます。そして私は一生、ここまでパワーのある言葉を発することはないだろうとも考えました。
好きだよって切れ切れに言う、きみはただ ん、って答える、汗を落として (yuifall)
待つものも持つものもなく白秋は生くべし「夜と霧」紐解けば (yuifall)
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