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Overdose (なとり)

邦楽歌詞感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

Overdose (なとり) 2022年

作詞作曲:なとり

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飲んで吐いて全部忘れちゃえ

水をまとった本心と鏡合わせ

見つめ会えたら

 

Overdose 君とふたりやるせない日々

解像度の悪い夢を見たい

Overdose 君とふたり甘いハッタリ

Don’t stop it music, darling

 

 この曲は、メロディはめちゃくちゃかっこいい!と思った反面、当初は歌詞が本当に嫌いで、自分の中でどう受け止めていいか分からんかった。多分ですけど、10代~20代前半向けの歌なんだろうなと。中年になると「オーバードーズはファッションじゃねえ!」って憤りが先立ちますし。しかし色々と考えていてなんかよく分かんなくなってきたんですよね。「overdose」という単語をそのまま受け止めれば、「過剰量」という意味なのでたとえば「君に溺れる」とか「音楽に溺れる」みたいな解釈も不可能ではないのですが、やっぱり「飲んで吐いて」「水をまとった本心」と言われると、水と一緒に経口摂取するやつですよね…としか思えないし。てことはこの言葉の通常の用法である「薬物等の過剰摂取」を何らかのメタファーとして使っているという解釈になります。なので最初はどうしても、オーバードーズという病的衝動をファッション化しているように思えてとても抵抗を感じました。しかし、オーバードーズリストカット摂食障害、鬱、境界性人格障害など若い女性と関連の深いメンタルヘルス系疾患はファッションとして消費されやすい傾向にあるのは事実で、そのことを悶々と考えていた時斎藤美奈子の『妊娠小説』という評論に出会ったんですけど、そこにはこうありました。

 

 日本の近現代文学には、「病気小説」や「貧乏小説」とならんで「妊娠小説」という伝統的なジャンルがあります。

 結核の治療法が発見されて「病気小説」が急速にすたれ、赤貧の駆除が進んで「貧乏小説」もいつのまにか姿を消してしまいましたが、幸いまだこれといった特効薬のない「妊娠小説」は、今日もなお、文学業界の現役として第一線で活躍しています。

 

 これを読んで私が思ったのは、確かに結核が国民病でなくなったことで『風立ちぬ』を代表とするサナトリウム文学は姿を消したように思えますが、「病気小説」は生き残っているのではないかということです。たとえば『世界の中心で、愛をさけぶ』や『君の膵臓をたべたい』などの主に若い女性が病気で死ぬジャンルですが(*後で読んだ斎藤美奈子『日本の同時代小説』では、“難病モノ”というくくりでこれらが説明されていました)、こういう小説の人気って時代が変わってもあまり衰えないし定期的にベストセラーになりますよね。この亜種として主人公である若い女性が精神的に病んでいる系統であるケータイ小説Deep Loveとか恋空とか)や援助交際モノ(桜井亜美とか)が一時期流行し、そういえば『ノルウェイの森』もそうだし、若く美しい女が若く美しいまま結核白血病でなかなか死ななくなった時代、「病気小説」の主体はメンタルヘルス系列に移行したのではという感があります。斎藤美奈子が『妊娠小説』で指摘しているような「避妊はダサいが中絶はかっこいいという風潮」はこういう「病気小説」にも見られるような気がする。セックスと死というテーマは繰り返されるんですね。同じようにポップミュージックジャンルでもセックスと死、エロス&タナトスというのは一つのテーマで、私が物心ついたような昔からずっと病みソングはあったし、今もボカロ界を中心に散見されます。こういうのって文芸と同じく普遍的な、廃れない人気のテーマではないだろうか。

 といっても死を歌う歌の中には例えば『少女レイ』(みきとP)みたいにまさにキッズコンテンツという感じのものもあり、たいていのボカロ系はこっちに該当するんだと思う。これらの歌のテーマは主に学校という閉鎖空間の中で思春期の自意識を持て余す子供たちの性と死への希求なので、むしろ中二病であることにその存在意義があり、大人としては自分はこの歌の対象ではないと思いながらも理解はできるし、ティーンエイジャーにこういう歌が必要な背景も分かる。この年代の子供にとって「死」と「性」はある程度切実な問題ですし。でももう少し年齢が上がって、18歳~24歳くらいを対象にした歌、少なくとも学校の外が舞台の歌(『Overdose』もこれに該当)となると、やや位相が異なるように思えます。これらは死をメタフィジカルなものとして弄ぶことのできる若さの特権的なものに感じる。

 

 以前Vaundyの『東京フラッシュ』について、「ステージ4の癌にかかっているみたいかい」という歌詞がマジ無理って書いたことがあるのですが、

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『東京フラッシュ』も『Overdose』も要は『TSUNAMI』(サザンオールスターズ)の亜種(死をもたらすものを逃れようのない愛のメタファーとして描く歌)として受け入れるべきでは?と思う自分もいるんですよね。いずれも I can’t live without you の言い換えだと思ってスルーしろよと思ったり、でもきみがいなくなってもまずめったに僕は死なないけど津波や癌やオーバードーズでは現実けっこう人死んでるよな…と思ったり。ただ、『Overdose』と『TSUNAMI』を比較すると、“津波”が誰にも襲い掛かるおそれのあるものであるのに対し、「飲んで吐いて全部忘れちゃえ」のメッセージ性は若者にしか向いていない気がする。現実には若かろうが年取ってようがオーバードーズは悲惨な自傷行為ですが、フィクションの世界では若者の属性としておしゃれ感で消費されがちなのに対し、中高年が「飲んで吐いて全部忘れちゃえ」だとフィクションの世界であっても全く救いようがなくポップさもおしゃれさもゼロであまりにも痛々しいし“オーバードーズ”の汎用性は“津波”と比べると低いように思えます(別に『TSUNAMI』の歌詞が好きってわけじゃないけど)。でももともとメンヘラ系統に限らずあらゆる恋愛ソングは若年層が対象であって中高年に当てはまる必要は全くないし、別に歌詞って共感を求めるものに限らないのでそこはまあいいっちゃいいのかもしれませんけど。

 しかし、この点においても『東京フラッシュ』はほんとに分かんないんだよな。癌って。確かに“津波”と同様誰にも襲い掛かる恐れのあるものではありますが、どっちかというとその脅威は中高年寄りじゃん。その意味はとりあえずおいておいて純粋に歌詞に使う言葉として考えても若者は共感しないでしょ。その後の歌詞が「Ageごしの性愛それでいいの」であることを加味すると恋の相手は年上なのかなという感じはしますけど、それにしても「癌」って言われるともうその相手は60歳以上なのでは…とか思ってしまってマジでわからん。なぜこの単語をチョイスしたのだろう。実体験に基づく何かなの?年上の恋人が若くして癌になったとか?その闘病の苦しみを知ってて使ってる?それとも単なる雰囲気?むしろ若いから“癌”の具体的なイメージがなくその痛みや苦しみを知らず言葉だけを利用できたということ?そう考えると、overdoseだって同じじゃないか、実態を知らず言葉だけを弄んでいるのではないか、とかまたぐるぐる思ってしまいダメです。ただ、別に“言葉狩り”したいわけではないので、こういう言葉を比喩表現として使っちゃダメ!と言いたいわけではないです。ただ好きじゃないというだけで。

 

 何かぐだぐだと考えてはみたものの結局は当初の感覚通り、「オーバードーズはファッションじゃねえ」という反発が全てなのかもしれない。もっと言うと、オーバードーズリストカット摂食障害、鬱、あるいは若く美しい死をオシャレ化して成立する文学やポップミュージックの安易な“エモさ”への反発というか。その言葉持ってきて“病み”(闇)漂わせればエモくなるってどーなの、その幼稚さは学校に置いて来いよ、という。ただ、同じく死をテーマにした『ダンス・ダンス・ダダ』(MAISONdes)の詞は好きなんですよね。

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そのことについても色々考えてみて思ったのは、死や生きることの苦しみ、あるいはオーバードーズリストカット摂食障害や鬱、境界性人格障害そのものをテーマにした歌だったら、たとえ表層的に感じたり耽美や“病み”ネタとしての消費性を感じたりしたとしても、これほど嫌じゃないかもしれないということです。『Overdose』はオーバードーズをメタファーとして使ってるから。きみと共有するポップでおしゃれでいけない甘い罪として。

 

 色々書いたけどなんでこんなに歌詞に拘るかって言うと結局曲として好きだからで、聴きたいからこそ葛藤があるんだよなぁ。どうでもいい曲だったら聴かないで済ますので歌詞のことなんか考えないもん。特に私はこれ歌ってるなとりの歌声がめちゃくちゃ好みで、他の曲も色々聴いたけどやっぱメロディが圧倒的にかっこいいのが『Overdose』で、聴かずにはおれんのよ。結果『Overdose』も『東京フラッシュ』もプレイリストに入れて毎日のように聴いているのですが、音楽聴く時歌詞をほとんど気にしない人もいるみたいなので、これらに関しては歌詞の意味等は深く突き詰めずに音として楽しもうというスタンスです。例えば舞城王太郎の『煙か土か食い物』はミステリとしてはなんじゃこりゃという感じなのですが小説としてめちゃくちゃ面白くて好きなので、別に歌詞がなんじゃこりゃという感じでも音楽としてめちゃくちゃよければそれでいいじゃんとも思うし、正直よく分かんないです。だってじゃあ一体歌詞ってなんのためにあるのか?そういえばアニメ『ちいかわ』に出てくるアイドルグループ「パジャマパーティーズ」の歌聴いて衝撃でした。歌詞なくてもいいんだ…!って思った。あと、メロガッパの『サンドウィッチマンのメンバーの名前だけでオリジナル曲作ってみた』という曲もおすすめです。歌詞なんてなくてもいいんだ。

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壊れてくresolutionにhalation きみと過剰なhallucination (yuifall)