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現代歌人ファイル その178-大口玲子 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

大口玲子 

bokutachi.hatenadiary.jp

形容詞過去教へむとルーシーに「さびしかつた」と二度言はせたり

 

 『短歌と「私」』の座談会でも取り上げられていましたが、

短歌の「私」 ② - いろいろ感想を書いてみるブログ

やっぱり何度読んでもどきっとする歌です。この人は日本語の先生で、様々な国籍の人に日本語を教えてきたんだそうです。

 ルーシーが英語話者なのかは分からないのですけど、例えば英語なら現在形―過去形の形態をとるのは主に動詞であるはずで、「形容詞過去」っていうのは不思議な表現なのかもしれないってこの歌を読んで初めて思いました。

 こうやって母国語を外側から見るというのは不思議な経験ですね。「うれしかった」じゃなくて「さびしかった」なのも、異国にいるというルーシーの感情と重なってきてなんとも切ない気持ちになります。

 座談会では「さびしかった」と二度も言わせることについて「自己の加害者性」という点からも論じられていました。

 

簡潔で荒々しくて率直なナショナリズムの夕立が来る

 

という歌もありますが、「国語」として日本語を教えるよりも、「外国語」として教える立場である方が、日本語の特異性やナショナリティを強く意識せざるを得ないんだろうなと感じました。

 その中に

 

名を呼ばれ「はい」と答ふる学生のそれぞれの母語の梢が匂ふ

 

っていう歌があっていいなあって思った。

 Yuri on Ice!!!ってスケートアニメの英語版のDVD持っているのですが、ロシア人のヴィクトルとかイタリア人のミケーレとかかなり訛りの強い英語で声をあてていて、声優さんたちどこ出身なんだろう??って思ったし結構その訛りが好きでした。自分が英語話者じゃないのもあって、訛り強い英語が好きです。ノンネイティブが話す日本語でも、それぞれの母語でうまく発音できない音とかあるとなんかいいなって思います。逆にネイティブ並みにうまくてもおおっ!ってなりますけど。

 

 結婚後は宮城県に住んでいたそうで、女川原発の歌が見られます。

 

コバルトライン走行しつつこの道が避難路とならむ日のことを言ふ

 

燃料プールまぶしく青く見ゆるのは北上川ゆ引かれ来しみづ

 

これらの歌は2005年の歌集に収められているそうなのですが、2011年の大震災の後、どう思われたんだろうと苦しくなりました。女川原発ではなかったけれど、実際に原発事故が起きて、海から内陸へ向かう道は避難路となりました。この「北上川」は石川啄木

 

やはらかに柳あをめる

北上の岸辺目に見ゆ

泣けとごとくに

 

と詠った川ですよね。かつての歌人が愛した美しい川が原発に引かれて、「まぶしく青く見ゆる」っていうことがなんだか言いようのないやりきれなさを感じました。

 

 

日本語は「僕は二個」でもいいけれどきみが二個でもきっとかなしい (yuifall)

 

 

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