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現代歌人ファイル その179-野口恵子 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

野口恵子 

bokutachi.hatenadiary.jp

東京の夜の雲にはうっすらと魚群の影が映されている

 

わたくしのヒールが作りし水紋が東京タワーをくゆらせている

 

 歌集のタイトルは『東京遊泳』だそうです。読んでいてわくわくしたし、なんだかちょっと切なくなりました。解説には

 

もともとスキューバダイビングを最初の趣味として始め、南の島に行けないときは夜の東京を散歩するようになったそうだ。

 

とあります。

 子供の頃、海沿いを夜歩くのが好きだった。でも私の夜の思い出はど田舎なので、東京だったらどうだろうって想像しますけど、分かりません。大学に入ってから好きなように夜外を出歩けるようになったけど、その頃はもう海沿いにはいなかったし、しかも二十歳前後の女子が夜うろつくのもなーって感じでしたし…。妥協点として、夜通し車でうろついたりはしてました。

 その時は、男の子だったらなーって思ってた。そしたらどこにだって行けるんじゃないかって夢見てました。だけどこの人の短歌を読んで、女性だってどこにだって行けるのかもしれないなって思った。

 

 『東京遊泳』から引用された歌は、東京が海だったら、という幻想と、大都市東京を泳ぐように渡る、っていう現実とが折り重なって、冒険みたいに魅力的なのにどこかノスタルジックで切なさを感じさせます。

 

マングローブ林のように絡まった思考が解ける風に吹かれて

 

 これとかも好きだな。マングローブ林も「水」のイメージですね。熱帯に吹く風かー。全然関係ないけどすごい若いころ山田詠美の『熱帯安楽椅子』何度も読んだこと思い出しました。

 

わたくしは気だるき夕べのビル街にビット文字列量産をする

 

 この人は理工学部卒でシンクタンク勤務、とのことなので、プログラマーか何かなのかな?こういう理系の人の言葉が詩になると、そのどこかアンバランスなところがめっちゃかっこいいなあと思います。解説には

 

自然への融合願望は、裏返せばデジタルに情報化された都市への反発という意味合いもあるのだろう。小さな「怪奇」であふれるディストピアチックな東京を描きながらも、しかしその日常の中から自然へと地続きの瞬間をつかまえようとアンテナを張り続けている。

 

とありますが、「ビット文字列量産」できること自体に憧れるし、そんな人が東京の夜を散歩しながら短歌詠んでるっていいなって思いました。

 

凍土から発掘されたマンモスが疼きだしたり春日を浴びて

 

青藍の銀河を渡るウミガメが産卵をする星満ちる空

 

のスケール感、圧倒されますね。

 

 

どこにでも行けた過去など 海水の濃度を指に確かめている (yuifall)