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現代歌人ファイル その161-島内景二 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

島内景二 

bokutachi.hatenadiary.jp

童(わらべ)らは悲しきことを平然と「隣は餓鬼を食ふ人ぞ」とや

 

不吉なる左回りの塁上に累累と野球選手の死骸

 

 この人は東大卒、東大大学院卒で電通大の教授らしくて、前半は

 

智慧はかなしアリストテレス捕縛され孔子(くじ)も羅什(らじふ)も子を生(な)しきとぞ

 

みたいな感じのなんだか妙に難しくてきらきらした感じの歌が多く(解説には「学徒らしいペダンティックさ」と書かれています)、いかにも塚本邦雄門下って思ったのですが、読み進めてきて「野球選手の死骸」みたいな歌にぶちあたって笑った。

 こうやってたくさんの歌人の作品に触れていると、定期的に笑える系短歌出て来て面白いなって思います。しかも東大卒のエリートの歌かと思うと余計に笑えます。「隣は餓鬼を食う人ぞ」ってさぁ。確かに子供たち、そういうこと言うよねー。しかしそれを短歌にしようと思うでしょうか(笑)。

 

 あとは、

 

歌集には、他者を自己の中に取り込むような「なりかわり」を実験した連作が多い。

 

と解説にあります。「源氏物語」の登場人物になりかわって詠んでいるそうで、

 

君とあふ以前の日日は消去され君とゐる日が生きてゐる刻

 

生きてゐただけの日さらば今日よりの生きてゆく日に桐の花咲く

 

などは「桐壺帝のうたへる」という一連からの引用だそうです。この人自身の言葉よりもむしろ柔らかくて現代的な口語に近いのが興味深く感じました。

 こういう歌好きです。元ネタがあって、それを自分風に(しかも自分自身が用いるものとは違う言葉で)がらっとアレンジしちゃうっていう試みに心惹かれます。だから本歌取りとかカヴァーとか好きなんですよねー。

 他にも夏目漱石の「こゝろ」に題をとった「掛け合ひ旋頭歌 『こゝろ』」という連作もあるみたいで、読んでみたくなりました。解説に、

 

島内にとって短歌とは自分以外の誰かに憑依し、心を共有してゆくための魔法だったのだろう。

 

と書かれています。

 

 これは私自身はいつも考えていることで、いつも自分以外の誰かを主人公に想定して歌を作ってます。男だったり女だったりどっちでもなかったり、セクシャリティも様々です。それらのキャラクターはほとんどが名無しのオリジナルモブキャラで、別にそういう試みが悪いとは自分でも思っていないのですが、もっと世界観を構成して連作を作ったりすべきなんだろうなぁとは思う。

 あと、すでに構成された世界観に乗っかって二次創作短歌・俳句を作ったりもします。以前も書いたのですが、

二次創作短歌について色々 - いろいろ感想を書いてみるブログ

(記事ではキャラ名消しちゃいましたけど)鬼滅の刃の伊黒さんとか、あとはgleeのKlaineとか。

 

 ちなみにKlaineを題材にした既発表作品のまとめ↓

 

意味なんて誰かが分けてくれるから知らなくたって歌ってよラブ

テキストの行間だけを読むような不意打ちのキス 冬のにおいだ

ありふれた例えだけれど眠れない夜のホットミルクだね、きみは

「友達に戻ろう」どこへ戻るんだ、出会い頭の恋だったのに

きみのこと必要だよって寄りかかるだけの強さがあの日あったら

湖に沈むみたいに輪郭がふやける、きみがいなくなったら

僕を見て 声は掠れていく雨が傾いてゆく道を溶かせば

ステージでJohn Legendを弾くきみはぼくを見てたね、彼女じゃなくて

きみのことまだ知らないと思うたび制御できない胸のときめき

からだごと受け止めてぼくのたましいの底のヘドロを浚いたければ

センサーを内蔵したね まなざしにこじ開けられてぼくはきんいろ

Make me surrender darling, you are the amber eyed hunter giving a drunker groggy slumber.

(アンバーのひとみは度数の高い毒 みつめて、きみに跪かせて)

だめだって、きみはみじかく息をつく、エリック・サティをくりかえしてる

ふてきせつにぼくを溶かしてアッサムにラムを一滴垂らすみたいに

剥きだしの無邪気さで愛を乞うきみの卑猥な語彙に負けるのが好き

蜂蜜を溶いた瞳がするどさを不意に増すとき そこにうつして

そのゆびがぼくをBaldwinにしてつらぬくAllegro Appassionato

自分ではたぶん出せない音域の声が掠れて、 いってごらんよ

ねえ、ベイビィ、もういいよ、って声が好き いいからもっと聴かせてハニー

「いいんだろ」決めつけられてゆだねれば自由だ空を落ちるみたいに

 

 

重ね着で武装するきみ ゆびさきじゃなくささやきで解いてあげるよ (yuifall)