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現代歌人ファイル その101-吉野亜矢 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

吉野亜矢 

bokutachi.hatenadiary.jp

わたくしの国とは違う水を通わせて匂える花のむらさき

 

 この歌好きです。前にコントレックスの硬度を調べていた時に、こんな硬水飲んで育った人とか生き物って自分と体内のミネラル組成というかなんか全然違うものでできてるんじゃないかって気がして、だから外国から来た花を見て、自分が飲んできた水ではない水で育ったのね、って思うの分かる気がします。調べてみるとけっこう外来の紫の花っていっぱいあるんだなぁ。だけど思うんですけど、この歌って今まさに違う国の水を通わせてるわけだから、花瓶にコントレックスでも入れたのかな(笑)。エビアンとか。

 

どの海の温度とおなじ今日泳ぐビル天辺に浮かぶプールは

 

 これもいいなー。ホテルのてっぺんかな。マリーナベイサンズ思い出します。どの海の温度と同じなんでしょうね。「ビルの天辺のプール」といういかにも人工的な存在が、温度という一点で海と馴染んでいくのがいいなって思います。

 

 この人の歌は、「地」「国」「地球儀」「地図」といった言葉がよく出てきて、それを上から俯瞰しているような感じです。解説には

 

吉野は植物をナショナリティの象徴として表現しているところにユニークさがある。(中略)岡井隆の解説には、「どこか、広い空間性が感じられるのであつて、人文地理的であつて、歴史的でない。」と書かれている。確かに、吉野の歌には空間性をうまく扱ったものが多い。(中略)いうなれば吉野の歌は平面的想像力によって全面的に開かれている。時間を超えて同じ土の上に立っているということに大きな意味を見出し、外部に想像を広げていこうとする。

 

とあり、

 

あるだろう 虹の根ふとく突き刺さるあたり制度の届かない地が

 

のように詠まれています。ルーツの違う、種の違う植物の「ナショナリティ」は、単に気候や日照などによる分布のことをさしているのかもしれず、それは「歴史」ではなく誰とも共有しうる「空間」、ということなんでしょうか。

 

傘の下覗き込む地図いつよりか寄り添うことを覚えだす肩

 

 恋の歌もこういう感じで、一緒に地図を見ています。「傘の下」に「地図」を見るって不思議だなぁ。本当の「地図」じゃないのかも。水たまりの模様とかなのかもな。

 

 

点で打つ字を読むように地球儀の山岳地帯を辿る指先 (yuifall)

 

 

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