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現代歌人ファイル その81-尾崎朗子 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

尾崎朗子 

bokutachi.hatenadiary.jp

「このへんでねえキスしよう、目を開けて。わたしはことばでできてないから」

 

 この歌めっちゃツボった。個人的には「わたし」じゃなくて「ぼく」だともっとハマるな。字数もぴったりだし(笑)。なんにせよめっちゃときめきますね。すごい好きです。でも

 

こひびとは文字にわたしを慰めるけもののやうに舐めてもくれず

 

という歌もあり、あなたはことばでできているんだね。言葉が欲しい瞬間とキスが欲しい瞬間がすれ違うということなんだろうか。それとも、恋人はサイバー空間の人なんだろうか。おそらく前者だと思うのですが、現代的な読み方をすると、あなたはことばでできている、という捉え方もできそうです。だからキスはしてくれないし、目も開けないし、舐めてもくれないんだ。

 

 歌も面白いのですが、解説、というかこの人の背景も興味深く読みました。歌集にはほとんどプロフィールが書かれていないそうなのですが、米川千嘉子の解説によると、訳あって伯母に育てられ、自身は離婚も経験しているとか。

 

留守番はきらい そのまま日が暮れて忘れさられし真夏のこども

 

われ捨てし人死にたまふ大晦日つひに二度目の孤児(みなしご)となる

 

という歌などから、満たされなかった子供時代が示唆されています。「われ捨し人」は父、もしくは母でしょうか。

 

ししやもには〈わたくし〉はなくししやもには形而上的卵がありぬ

 

なんて歌もどきっとします(全然関係ないけどししゃもは卵に栄養を取られないオスの方がおいしかったりするんですけどね)。

 

錆くさき血族よりもあかねさす赤の他人のあなたはやさしい

 

と詠いつつも

 

水よりも濃き血をうとみさびしみぬ〈里親募集〉のポスターの前

 

母の意に染まぬ婚姻解消しいい子いい子にもどる夕焼け

 

という歌を読むと、実母のために夫を捨てた、ということなのかもしれません。一方で

 

きつね、鶴また雪をんな異類婚君を捨てねば〈わたし〉になれぬ

 

とも詠んでおり、「君」と「わたし」は「異類婚」であったと言っています。これはもうおそらく自分の生まれをほとんど業のようにとらえているのかなと。「血は水よりも濃い」という言葉に人生を縛られてきた人なのかもしれません。

 血縁こそが最も尊いなんて、嘘だと思います。日本語って(他の言語は知りませんが…。あともともと中国故事からのことわざもありますが…)正反対の意味の慣用句ってよくあるし、「遠くの親戚より近くの他人」とも「氏より育ち」とも言いますよね。「君子危うきに近寄らず」と「虎穴に入らずんば虎子を得ず」もあるし、「三度目の正直」と「二度あることは三度ある」もあるし、「善は急げ」と「急がば回れ」もあるし「好きこそものの上手なれ」と「下手の横好き」もあります(他にもたくさんある)。この人の歌読んでいて、逃げてよかったんだよ、「いい子」になんてならなくてよかった、と思って悲しかったです。

 

 

水よりも濃き血と言ふが下水なら血より濃からむeau de vieを吐く (yuifall)