山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
鶴田伊津
離れればたちまち淡くなりてゆく水溶性の愛を淋しむ
「水溶性の愛」かぁ…。会ってる間は好きだと思っても、離れるとあまり思いださなかったりするってことかな。でもそれが「淋しい」のか。もっとのめり込むように愛したいと思っているんだろうか。寝ても覚めてもあなただけみたいな、そういう愛し方ができないことがさびしいんでしょうか。
ちょっと暗い感じのセクシーな歌が多くて、
夜の河の冥さ秘めたる君の眼にあらがえぬままTシャツを脱ぐ
これなんか好きですね。燃え上がる情熱って感じじゃないんだけど、静かに突き動かすものがあるんだよね。無言のまま促されて、あらがえないことが好きみたいなさ。「生殖」「性欲」といった言葉が詠われていますが、その中に
問診は水の言葉で続けられ性交の日をほつと聞かれぬ
身の内に子を浮かべたる女らに囲まれ我は沙羅の木になる
という歌が混じっていて、これらはおそらく婦人科に通院していることを示唆していると思われます。自分は「性交の日を」聞かれながら「身の内に子を浮かべたる女らに囲まれ」ている、ということは、不妊治療でもしているのだろうか、と。
押ボタン信号だとは気づかずにただ待っていたようだ あなたを
の「あなた」は、恋人じゃなくてもしかしたら子供なのかもしれないと感じました。
産むということばの不遜わたくしは子を運び来し小舟にすぎず
そして母になりますが、出産って英語では「delivery」とも言うよなーって思った。運ぶだけなんだよね。
抱くという円環を子と結ぶ日々 先に離すはあなたであろう
子はボール 転がり先を知らぬままどこか遠くへ行ってしまうよ
と、離れていく存在として子供を詠んでいます。自分は子供を運んできた舟で、いつか子供は舟をおりて一人で行ってしまう、っていうことが、あまり淋しそうじゃなく淡々と詠われているのが好きです。
あや取りをくずさぬままに寝るひとのいつか野ばらを抱く手だろうか (yuifall)