山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
柳宣宏
とぼとぼと歩いてゐても背中から月が照らしてゐるのであつた
ちょっと宮沢賢治ぽいな(笑)。背中から月が照らしてゐるのでした。みたいな。「夏草」「どんぐり」「もみぢ」「木の芽」「すみれの花」など、自然をテーマに詠んだ歌が多く紹介されています。解説には、
柳の歌は山崎方代を思わせる、やわらかな口語体が特徴である。難しくない言葉で人生の真理をずばっと突いてみせるような歌が多い。それでいてユーモア感覚もあり、決して説教くさくはならない。
と書かれています。
どんぐりがどんぐりの木となることをつまらぬことだと思つてゐないか
勇ましいことはおほよそ恥づかしいすみれの花を見てごらんつて
こんな歌すごく好きです。俳句界に行っていても不思議でないような作風なので、短歌で読めることに幸せを感じました。
海原を飛んでゐるのはかもめですどこまで行つてもまる見えである
面白いなって思ったのは「かもめ」の歌で、「まる見え」「丸出し」と詠われてます。確かに360度見放題だから丸見えなのかもですけど、そんな風に考えたことなかった(笑)。鳥とか昆虫とか空を飛ぶ系の生き物ってことごとく丸見えといえばそうなんですが、確かに「かもめ」ってフォルム的に丸出し感が強いのかも…。こういう言葉、一生自分の中からは出てこないな。
百万の死をも辞さずと言ふけれど「お前が死ね」と言はれてごらん
これには「勇ましいことはおほよそ恥ずかしい」と同じ精神性を感じますね。「百万の死をも辞さず」は、おそらく戦争だと思うのですが、そこまでして勝ち取るべきものは何か、ということが突き付けられているようです。「お前が死ね」っていう言葉で、死を遠巻きに見て数でカウントすることの愚かしさが端的に表現されています。「百万の死をも辞さず」というのなら、百万人の一人ひとりに面と向かって「お前が死ね」と言えるだろうか。そして当然、その中の一人は自分なわけです。
ふきのとう小川のそばにふくらんでこの地面にも持ち主がゐる (yuifall)