北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。
前田康子④
白桃に深き傷ありその面を隠して父の食卓に置く
今までずっと等身大な感じの、分かる!っていう意味で好きな歌を紹介してきたのですが、今回は凄み系です。自分の中にはない系ですね。
この歌とか怖い感じします。白桃に深い傷があることを分かってて、その面を見せないようにお父さんの食卓に置くの。白桃は何かのメタファーなんだろうなと思うのですが、白桃っていうとどうしても女性や子供がイメージされるので(多分、筒井康隆の『家族百景』からの連想だと思うけど…)、「父」に対して「女性・子供」っていうと「自分自身」なのかなって気がしてて。つまり、お父さんに対して自分の深い傷を隠してる、ってことがイメージされます。
まあ単純に考えると「キズモノ」=「婚前交渉」とかなのかもしれないけど、個人的には、性とは離れた「深き傷」であってほしいなと思ってます。父と娘の葛藤が恋人だけじゃ、ちょっとステレオタイプすぎますもん…。
心中の前に爪切ることなどを君に教えし小春日の部屋
これも凄いな…。前半と後半の落差がすごいです。後半で落とすんじゃなくて、ふわっと持ち上げるところも好きだ。それでも「心中」の話を「小春日の部屋」でしてるのを想像すると、なんというか、ふわっと持ち上がってそこからがっと落ちるジェットコースターみたいな感じ(笑)。「雨の部屋」とかよりよっぽど怖いです。
ちょっとあったかくて晴れた日に、あんまりなんもない狭い部屋で、オレンジっぽい視界で、女の子がうずくまって足の爪切ってて、ふっと顔を上げて、「ねえ知ってる?…心中の前って、爪、切るんだってさ」って言うのを想像する。あ、今からこの子と死ぬのかな、ってぼんやり思うの。どうやって死ぬのかな、って。ちょっと窓に目をやったりしてさ。
身を投げしは十五階とぞ聞きおれば真青の空が裏返る気配
そして「身を投げしは十五階」ですよ。この部屋は十五階なんだな。で、外は青空で。オレンジっぽい色彩の部屋と、青い空ががっと対比されて、彼女の顔の表情は逆光でよく見えないんだ。「十五階から飛び降りたんだって」、って言うの。
でも、心中の手段として飛び降りはあまり一般的ではないような気がしますね。勝手に繋げて紹介しましたが、この二首は連続した歌というわけではないと思います。。
そう決めてしまへばどこかあつけなくただ手順のみのしかかりをり (yuifall)
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