北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。
大田美和②
君はいま少年のように黙りこみ風を孕んだスカートを抱く
めっちゃかわいいなー。なんか「君」のちょっと初々しい感じが萌えます。いや、でもな。初々しいっていうより、「少年のように」だから大人なんだろうけど、大人の君が少年のように黙りこんだままスカートを抱く、っていうちょっと切迫した感じが萌えるんだな。いま、どうしても、っていうちょっと焦った、差し迫った感じ。この時、彼女の方も黙り込んでいるのかな。それとも、何か話しかけているんだろうか。
眠る子をそっと外して手話交わすようにひそかに性交をする
これはもっとぐっと大人っぽいですね。会田綱雄の『鹹湖』という詩集の中の『伝説』という詩を思い出したよ。すごく美しい詩なのですが、最後の一節を引用します。
こどもたちが寝いると
わたくしたちは小屋をぬけだし
湖に舟をうかべる
湖の上はうすらあかるく
わたくしたちはふるえながら
やさしく
くるしく
むつびあう
あー。この詩すごい好きです。人の営みが美しい言葉で描かれていて。湖の上に舟を浮かべるのは、中原中也の『湖上』も連想させられますね。
月は聴き耳立てるでせう、
すこしは降りても来るでせう、
われら接唇(くちづけ)する時に
月は頭上にあるでせう。
三枚におろす魚の血の匂い生きる喜びはこんなことにも
『伝説』では蟹を食い蟹に食われるのですが、大田美和や谷岡亜紀は魚を食べるんですね。そして死んだら魚に食われるのかな。魚のはらわたを取って、血の匂いを感じて、っていう、ナマの生を「生きる喜び」とまっすぐ歌っていて、この人の歌は女性として生きていくことに素直で真摯で一所懸命な印象を受けます。フェミニズムに関する歌が多い印象ですが、「血の匂い」を「生きる喜び」と感じるのは、やっぱり「女性であること」を前面に押し出している感じがします。良くも悪くも。
まだ産めると言ふごと灯る性欲の窓辺に照り返しゆくを眺む (yuifall)
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