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桜前線開架宣言-高木佳子 感想2

左右社 出版 山田航編著 「桜前線開架宣言 Born after 1970 現代短歌日本代表」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com 

高木佳子②

 

 短歌を読んでいると、この人の現実の子供は男の子なんじゃないかなって気がするのですが、「少女」をテーマに詠まれたものもあります。もしかしたら男の子も女の子もいるのかもしれないけど、なんとなく歌に登場する「少女」は幻想の存在な感じがするんですよね。

 

そのかみの少女の脛のふくらかな小鳥の胸を思はすること

 

合歓の葉の閉づる夜なれば両膝をかたく閉ざして少女も眠る

 

 これらは少年の歌と比べるとちょっとロリータ的というか、少女愛的な感じがして。性に目覚める前の少女の美しさというかさ。やっぱり女性の作品だから、少年よりも少女に性のイメージを重ねやすいのかもしれません。

 少なくとも私はそうなのですが、少年の性の目覚めについて実感がないので、少年はどこか遠い憧憬の存在なんですよね。で、少女の方が幼いながらも性に傾いていく様子がよりリアルに描写できるというか。

 

 それにしても「両膝をかたく閉ざして」の歌なんてすごい痛々しい感じがしてつらいです。そういう意図の歌ではないのかもしれないけど、無垢でかたく閉ざされた少女がいつかこじ開けられていくのかと思うと生々しく吐きそうにつらい。そして、そういうふうにとらえる自分を不思議に思います。いつか美しく誇らしく花開くのかもしれない、いや多分現実はそうなんだろう、そうあってほしいって考えるのに、なぜなんだろうか。このあたりの感覚、フェミニストだったらNGな感じですよね…。自分の中にはもう「かたく閉ざした」少女はいないはず、と思いながら、未だに自分の中にも「少女」と「性」に直視しがたい痛みがあることをきりきりと思いださせるような歌でした。もしかしたら全ての女の子たちにとって、「両膝を開く」ときが幸せであってほしい、という切なる願いがそう思わせるのかもしれませんが…。

 

 育児とか子供とは関係なさそうな作品だと、

 

ミルフィーユむごく崩せるけふの日のこの切り岸のごときいつとき

 

なんかすごく好きで、どれもやや昏い幻想的なイメージの作品が多くて全体的に静謐な美が漂っています。この歌の「むごく」ってたった一つの言葉だけで完全にまいってしまいました。

 

 ところでこの「まいる」って英語で言うとどういう表現なのかな。Fall for? Gone on? Stuck on? Be at one’s feet? Taken with? Madly in loveの方なのか、Beatenの方なのか…。日本語で言い換えようと思うとやっぱり「やられたなー」って感じなんだけど、「負けた」って意味じゃなくてやっぱりニュアンス的には「心を奪われる」に近いですよね。めろめろ、いちころ、ぞっこん、みたいな。そうなるとMelted? Turned on? Charmed? うーん難しいです。負けてはいるんだけど、勝ちたかったのに負けたんじゃないんだよな。むしろ跪きたいというか、要は不二子ちゃんみたいな感じよ(笑)。

 

 

ぬばたまの長き黒髪湯船へと柔く放ちて少女は笑まふ (yuifall)

 

 

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