「一首鑑賞」の注意書きです。
333.切株の裂け目に蟻の入りゆきて言葉以前の闇ふかきかな
(今井恵子)
砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで澤村斉美が紹介していました。
「言葉以前の闇」に心惹かれる歌です。切株は言葉が生まれる前からこの世にあって、蟻もいて、蟻が切株に入ってゆくような生命の営みは言葉以前から繰り返されていて…、ということを考えましたが、「闇」という一言がもっと深い意味を感じさせます。
歌集の中で、この歌は母の死を詠う連作の終盤に置かれているそうです。
「言葉以前の闇」はいろいろな取り方があるかもしれない。「人間が言葉を使う以前」というふうに、人と言葉の歴史を俯瞰する視線を読むこともできる。が、ごく個人的な状況を想定して、言葉にはならない自分の心の様態のことを言っているものとして読んだ方がいい、と私は思う。切株の裂け目の奥の闇と、言葉にはならない混沌とした心の様態とが呼応する一首だ。
とありますが、「ごく個人的な状況を想定して、言葉にはならない自分の心の様態のことを言っているものとして読んだ方がいい、と私は思う」というのは、もちろん連作内での位置づけもあるとは思うのですが、それを知らず一首で読んでもやっぱり「闇」という単語から、単純に「人間が言葉を使う以前」以上の意味を読みたくはなります。
言葉以前の闇、裂け目に入ってゆく、という言葉と「母」という存在を重ね合わせると、太古の昔まで命が遡って行くような印象を受けました。母の胎内に戻って、母もまた祖母の胎内に…、という。誰も母親から生まれたのだという当たり前のことをふと考えました。
僕たちが消えてゆくとき日本語も死にその歌も忘れ去られる (yuifall)