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「一首鑑賞」-273

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

273.重ねればやわらかい指ぼくたちは時代錯誤の愛を着ている

 (東直子

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで江戸雪が紹介していました。

sunagoya.com

 最後の「着ている」に(いい意味で)引っかかる歌です。「時代錯誤の愛を着ている」ってことは、ペアルックなのかなぁ。

 

 「時代錯誤の愛」という表現に心惹かれる一方で、それっていったい何だろう、という思いもあります。江戸雪は

 

そして下の句に表わされる「時代錯誤の愛」には、つよくひかれ、共感する。

(中略)

結句の「愛を着ている」のずれた言い回しが、このうたを素朴で強いものにしている。
愛は、時代錯誤で、ずれたものほどいい。

 

と書いています。しかし、かつて愛はもっと、崇高なものだっただろうか?別にそうじゃないと思う。過去のことを記した書物を読み、歴史や文学を知るほどにそう思います。なんなら昔の方がはるかに、愛とアイデンティティや性行為は切り離されていたし、結婚は生活の手段だったし、自然死も殺人も含めて死はありふれていたし、人は他人(恋人、配偶者、子供)に責任なんて持っていなかったのでは。

 

 多分ここで憧れられているのは、「時代錯誤の愛」という概念的な何かなんだと思う。それは現実には一度も存在しなかった(あるいは今も普遍的に存在する)ものです。それを「着ている」という表現がとても詩的…、なのですが、個人的には、もっと短絡的に読みたいと思ってしまうんだよなー。要はペアルックですね。ぼくたちはペアルック着て手を繋いじゃうよ♡無敵の二人♡みたいな。

 

 もしかしたら 『プラスティック・ラブ』(竹内まりや)的なものへのアンチテーゼなのかもしれないと思ったのですが、でも、お互いがお互いを慈しむ、手を繋ぐだけでどきどきする不器用なスローラブ、みたいなのは、個人的には「時代錯誤」感あんまなくて、普遍的なものに思えます。あと今の時代の“新しい”感じがする、「ネット上で出会ったけどリアルには一度も出会わないままの恋」とか「マッチングアプリでの出会い」みたいなのって、結局平安時代の「顔も見たことないけど噂や和歌、垣間見た黒髪だけで恋しちゃう」みたいなのとそんな変わりない感じするし。

 要はありとあらゆる愛は普遍的で、時代錯誤で、重なる指がリアルでもバーチャルでもやわらかく感じてしまうものなのではないかと思ったりした。ペアルックは今は「双子コーデ」「リンクコーデ」なのかな?

 

 

言葉だけがあなたを変える 指さして、あれは瑠璃色これは空色 (yuifall)

 

 

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