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読書日記 2024年2月7-13日

読書日記 2024年2月7-13日

ヴィクトル・ユーゴー豊島与志雄訳)『レ・ミゼラブル(完全版)』(後半)

龍門諒恵広史BLOODY MONDAY』6-11巻

・ダンテ・アリギエーリ(平川祐弘訳)『神曲 地獄篇』

・ダンテ・アリギエーリ(平川祐弘訳)『神曲 煉獄篇』

・ダンテ・アリギエーリ(平川祐弘訳)『神曲 天国篇』

岡野宏文豊崎由美『百年の誤読』

岡野宏文豊崎由美『百年の誤読 海外文学篇』

滝沢秀一『やっぱり、このゴミは収集できません~ゴミ清掃員がやばい現場で考えたこと~』

伊坂幸太郎『チルドレン』

萩原朔太郎『詩の翻訳について』

中島敦山月記

 

以下コメント・ネタバレあり

 

ヴィクトル・ユーゴー豊島与志雄訳)『レ・ミゼラブル(完全版)』(後半)

 後半も相変わらずユーゴー節というか、唐突に「隠語」(スラングのことと思われる)について延々と解説する章が挟まり、今読んでるのスラング辞典か何かか?ってなった。更には「やむを得ない場合には読者を婚姻の室に導くことはできるが、処女の室に導くことは憚られる。それは韻文においてもでき難いことであるが、散文においてはなおさらである。」とか書いておいてその後1ページまるまる「処女の部屋とはどういうものか」を事細かに描写するし、ジャン・ヴァルジャンがマリユスを背負って下水道から逃げたシーンではパリの下水道について延々30ページも描写し(下水道批判から下水道の歴史、現在、未来に至るまで…。論文か?)、もしここに落ちたら糞尿にまみれて死ぬことになるが糞尿にまみれて死ぬとはどういうことか…とまた長々語り出し、もはや冗談かと思えるような細かさです。書き込みが細かすぎるので逆に今自分が何読んでるのか分かんなくなるよ…。同じ登場人物が再び出て来たりしてもメインキャラじゃないと誰だか思い出せないし、伏線を張っているような思わせぶりな場面があっても後から何だったか分からなくなってるし、長すぎるのも考えものだなと思いました。一方でストーリーが進行している間はとても面白いです。

 だいたいあらすじとかは漠然と知っている有名小説だし、タイトルが「ああ無情」(直訳すると「悲惨な人々」)なので、『嫌われ松子の一生』(山田宗樹)とか『ダンサー・イン・ザ・ダーク』みたいな感じの流れを想定していたのですが、そこまで悲惨なのはフォンテーヌとエポニーヌくらいで、コデットとマリユス、ジャン・ヴァルジャンに焦点を当てて読むとむしろ救いがある話に思えます。ミュージカル観たことないのですが、フォンテーヌの『夢破れて』とエポニーヌの『On My Own』、ラストの『大衆の歌』が3大名曲とされているらしく、やっぱみんな不幸なヒロインに心惹かれるんだな…って思った。エポニーヌが、自分が恋しているマリユスに彼が恋しているコデットの居場所を教えてあげて、「あたしに何でも望み通りのものをくれるって約束したでしょう」と彼に“笑顔を見せてほしい”と頼んだことを思い出させようとしたのに、それを完全に忘れているマリユスが彼女にお礼としてお金を差し出したシーン読んでいてとても悲しくなってしまった。

 恋愛あり親子愛あり善人が身を持ち崩したり悪人が改心したり善人とも悪人とも言えない人がたくさんでてきてそれぞれ苦しんだり、歴史、風俗の描写や蘊蓄あり、冗談みたいな内容を真顔で語り、色々ありつつも最後は泣かせてくれ、やっぱエンタメ小説じゃないのか、これ。

 

龍門諒恵広史BLOODY MONDAY』6-11巻

 壮大な話だった…。セカンドシーズンとかあるらしいのですが、宗教、テロリズム、ウイルス、中性子爆弾、仲間の死と裏切り…等々『24』かよ?みたいなことはすでにやりつくしてしまったのでは。これからさらにどうなるんだ。生き残った「J」と対立すんの?でもこの仲間たち、中二感きつすぎてどうも…。特にカインとアベルは見てられないレベルです。「J」の立ち位置はよかったけどね。

 一番かませ犬っぽかった“先生”が生き残ったのちょっと笑った。ずっと「もう失敗は許されないの」とか言いながら失敗しまくりの高飛車巨乳キャラだもんね、少年漫画的にはおいしい役どころかもしれんね。あとフィクションに登場するハッカーは軽率にペンタゴンハッキングしがちだな、と思いました。主人公の親友が裏切者だったらかなりきつい展開だなーとびびりながら読んだのですがそれはなくてよかったです。

 

・ダンテ・アリギエーリ(平川祐弘訳)『神曲 地獄篇』

・ダンテ・アリギエーリ(平川祐弘訳)『神曲 煉獄篇』

・ダンテ・アリギエーリ(平川祐弘訳)『神曲 天国篇』

 タイトル知ってるけど読んだことない有名小説読んでみよう企画第4弾。ダンテ面白いよ、と勧められていたものの難しそうだなーと放置していたのですが、河出文庫版がセールになってたので3冊まとめ買いしてみました。

 これは歴史上の人物、ギリシャ神話に登場するキャラクター、キリスト教の重要人物、同年代に生きる人などが多彩に登場するいわゆるクロスオーバー創作の一種ですね。地獄はかなりざまあ系ラノベ臭するのですが煉獄はRPG、天国はいきなり禅問答です。確かに浄化されてる雰囲気はとても感じました。

 しかしながら、正直登場人物の9割くらいは分からないしキリスト教の教義には共感できないし(マホメット地獄にいるしさ…。あまりにも傲慢すぎんか)ダンテの自分大好きには辟易するしそもそも口をきいたこともない人妻を自分を導く「永遠の淑女」扱いしちゃう厚顔無恥さがどうなのっていう感じでほぼ理解も共感もできないままとりあえず読み終わった感。まあ私はキリスト教徒でもないしキリスト教の文化圏にもいないのでそういう思想的バックグラウンドがない上、これもともと叙事詩だから韻を踏んだりとかあるらしいんですがそれを原語で味わえないというかなりのリミテーションはあるので、全くもって真髄には到達してない自覚はあります。ただし分からないなりに、注釈と解説は面白かったです。

 一応最も人気のある『地獄篇』を中心にそれなり長い感想書いたし色々考えたりはしたので後日出すかもしれないし出さないかもしれない。

2024年3月16日追記:載せたのでリンク貼っておきます。

ダンテ・アリギエーリ(平川祐弘訳)『神曲』 感想1

ダンテ・アリギエーリ(平川祐弘訳)『神曲』 感想2

 それにしても現代短歌の歌集ですらハードル高くて読めてない私が古典宗教叙事詩を読もうなんて無理にもほどがありましたが、これ、現代において完全に理解できる人、一体どれだけいるというのだろうか…。神学、西洋文学、比較文学、宗教学、西洋美術史などキリスト教と切り離せない学問の学徒は必読かと思われますが、そうじゃなかったらミリしらジャンル(しかも多数)のクロスオーバー創作みたいな感じなので…。ただ地獄篇に限っては描写も迫真だしウェルギリウスとのBL展開?とかもあり、異世界転生ざまあ系ラノベとして読むという手もあります。まあその手は天国篇には全然通用しませんが…。日本人でしたら宮沢賢治銀河鉄道の夜』でも読んでおけば、美麗なイラスト入り44ページで『天国篇』並みの浄化された気分を味わえるのではなかろうか。

 

岡野宏文豊崎由美『百年の誤読』

岡野宏文豊崎由美『百年の誤読 海外文学篇』

 今古典文学マイブームなので読み漁ってましたが、(私の読書環境で)『レ・ミゼラブル』約3000ページに『神曲』トータル約1800ページで徐々に息切れしてきました。次『罪と罰』読もうと思ってたのですがちょっと無理ってなったので軽く楽しめるやつ。

『百年の誤読』は2004年の本で、20世紀に出たベストセラー小説を滅多切り!みたいな内容でとても楽しいです。ベストセラー本には1世紀後も読むに堪えうる本もあれば今思えばトンデモ本もあるよ、って感じで、何もかもありがたがって読まなくてもいいんだなぁみたいな安心感があります。読みながら声出して笑ってしまった。

 1960年代からベストセラーのレベルが下がりまくっていると嘆いてましたが、戦後15年を経て教育が広く行き届き、多くの国民がくだらない本という娯楽を楽しめるようになったということではないでしょうか。実際、「日本文学全体のレベルが落ちてるってことなのかな?」という岡野宏文に対し豊崎由美が「レベルの下層部の厚みが増しているんじゃないか」と答えていて、私もそう思います。しかし2000年代になると『Deep Love アユの物語』(Yoshi)とか『世界の中心で、愛を叫ぶ』(片山恭一)とかになっちゃってほんと目も当てられないんですが、でも戦前の「レベルの高い文学」を読んでたレベルの高い日本人が何やったかって戦争ですからね。半藤一利だって「戦後の日本人の民度はひどかった」って書いてたし、マッカーサーには「日本人は12歳」とか言われてるしね。教養の意味あるんかって虚無になるよね。平和にくだらない本読むくらいでいいんじゃないですかね。まあ、今となっては何歳だよ、幼児かよって感もありますが…。

『海外文学篇』も面白いです。『華氏451度』(レイ・ブラッドベリ)とか滅多切られてて笑ったわ。設定甘すぎやもん。まあ私の好きな『1984』(ジョージ・オーウェル)もちょっとディスられてたけど。でも大好きな『夜間飛行』(サン=テグジュペリ)は絶賛だったので嬉しかったです。本格ミステリは子供のための文学、って言われてて、確かにその側面はあるよなと思いました。前に『図書館の殺人』(青崎有吾)、なんじゃこりゃって書いたけど、そもそも私は読者として想定されている年代に含まれないかもしれん。ジュブナイルかもしれません。

 読んでみたくなる本もあれば、これはまあいいかって思う本もあって、さっそく青空文庫を漁ってみる。

 

滝沢秀一『やっぱり、このゴミは収集できません~ゴミ清掃員がやばい現場で考えたこと~』

 数年前に『このゴミは収集できません』とまとめて2冊買って、2冊目が途中になっていたような気がして再読。やばいゴミ捨て現場が描かれる、人の振り見て我が振り直せ系のエッセイですね。若干の説教くささを除けば面白いし、何より頭が下がります。

 

伊坂幸太郎『チルドレン』

 うーん、伊坂節としか言えない感じの本でした。アオリ文に「伊坂幸太郎、まずはコレ!」って書いてあったので、まさにそんな感じかもしれません。ある一人の自由奔放な男が狂言回し的存在で、その周囲の人間が語り手になっている短編集です。銀行強盗あり狂言誘拐あり伏線回収ありな伊坂テイストでちょっとしたというには大きな事件が立て続けに起こるのですが基本淡々と進行します。表題作の『チルドレン』、オチ見たときにこれどこかで読んだことあるなって思ったのでもしかしたら初読ではなかったのかもしれないが記憶にない。

 

萩原朔太郎『詩の翻訳について』

 北村薫『詩歌の待ち伏せ』で引用されていて気になっていたのですが青空文庫でタダで読めたので読んでみた。詩の翻訳の不可能性について語ったもので、内容は辛辣ながらとても面白かったです。別の機会にまたくどくど引用します。

 

中島敦山月記

 青空文庫で読めたのでついでに。昔教科書で読んだのですが再読。とても短いですが文体も格調高く、内容も味わい深く、やはり10代の若者に読んでほしい話だなあと思いました。