「一首鑑賞」の注意書きです。
163.一瞬で耳かきを吸う掃除機を見てしまってからの長い夜
(公木正)
砂子屋書房「一首鑑賞」で永井祐が取り上げていました。
「長い夜」が最高です。「一瞬で耳かきを吸う掃除機」まではあるあるなんですけど(そういう経験ありますよね…。吸うべきでない大きさのものを掃除機に吸わせてしまうこと)、「長い夜」の一言によって、「掃除機」が異化されます。一気にホラーというか、スリラーの世界観になるみたいな…。こいつと夜明けまで過ごさなくてはならない、みたいな…。今度は自分を吸いに来る、という感じすら受けます。
でも、永井祐の読み方は全く違っています。
「見てしまってからの長い夜」
この下句のつけ方とおさめ方がとてもかっこいいように思います。
説明しがたいようなところですが、なんだろう、とりあえずちぐはぐな感じがしますね。
わたしが遭遇した小事件と、特に無関係に夜が長く続いていく。
上句と下句が、順接でも逆説でもつながらない。
夜はただそこにあって続いていくだけだった。そういう感じがして、この歌を読むと、とても静かで大きな夜の感触が浮かんでくる気がします。
自分の読み方を最初に書いておいてなんですが、永井祐の読み方の方が好きですね(笑)。「掃除機」と「長い夜」は全く無関係である、と。その方がいいな。
短歌を読んでいて楽しいなって思うのは、こういう「説明がない」ところで、説明がないから色んな読み方ができるし、そして色んな人の解釈を読むのがとても好きです。自分の思考の癖や限界が分かるし、思いもよらない見方を提示されると「ああ!」ってなる。その瞬間がとても好きです。
お得意の深読みをよろ水色の種なしぶどうの既視感の夜 (yuifall)