百人一首現代語訳 感想の注意書きです。
十三・筑波嶺の峰より落つるみなの川恋ぞ積もりて淵となりぬる
後撰和歌集 巻一一・恋三・七七六 詞書「釣殿の御子につかはしける」 陽成院
筑波山から流れ落ちる男女川のように、はじめは浅かった恋心が、
積もりつもって深い淵となってしまった。
恋ごころ
つもりつもって
深い深い淵となった
筑波の山の水が、落下して
深い深い滝壺を作るように
(さ・え・ら書房 『口語訳詩で味わう百人一首』 佐佐木幸綱)
筑波嶺の 峰から落ちる 女男川
恋は積もって 淵になります
胸のほとりに個展をひらく「恋」という題の絵画を自分でほめて (望月裕二郎)
この歌は、「筑波嶺」でかつて「歌垣」というものが開催されていたというところからきているみたいなのですが、「歌垣」っていうのは、下川耿史の『エロティック日本史』によれば男女の出会いというか、一夜の出会いを楽しむパーティー的なものだったらしいです。なので、単に「歌垣」が行われた「筑波嶺」の「男女川」という、官能的な意味合いを重ねて読めばいいみたいなのですが。
望月裕二郎はこの歌を「つまらない」と言っています(笑)。まあ確かに、歌の内容をシンプルにとらえるとありきたりっちゃあそうなのかもしれませんが、和歌って掛詞とか係り結びとか枕詞とかの修辞上のトリックは多いですが、わりと内容的にはシンプルだなと思うことが多いです。それにしても望月裕二郎の書いている妄想の内容が面白いですが。その辺読むために本買ってほしいです(笑)。
あとこの歌好きなのは、宮木あや子の『泥(こひ)ぞつもりて』が好きだからです。この歌を詠んだ陽成院とその周囲の人間関係が(フィクションですが)濃く描かれていて、この歌のシンプルな印象ががらっと変わります。宮木あや子はとにかく女の濃い情を描くのがうまいですよね。『花宵道中』とか『白蝶花』なんかはそっちの系統ですが、『校閲ガール』とか『婚外恋愛に似たもの』みたいな軽めのタッチの小説も好きです。一時期めちゃくちゃ読み漁りました。
恋は淵 深く澱みて繁殖も死の伝説も渦巻くところ (yuifall)