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「一首鑑賞」-91

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

91.かつて祖父は資産運用に敗れたり古き通帳に雨の匂いぬ

 (桜井健司

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」で澤村斉美が紹介していた歌です。

sunagoya.com

 気に入った歌をピックアップしておいて後で読み返すのですが、自分でピックアップしていたこのリンクを開いてみてちょっとびっくりしました。多分何か思うことがあって選んでおいたはずなのに、その内容が全く思い出せなかったからです。これを選んだ時、自分は一体何を鑑賞文に書こうと思っていたんだろう。ですが読んでいて素直に面白いなと思ったので、単にそれが書きたかったのかもしれません。

 

 金融業界で働く人のようで、他にも数首引用されているのですが、

 

ひたひたとデフレ・リスクが生活の水際(みぎわ)にし寄る秋と思うも

 

不景気に蝕まれたる経済は四肢を垂らしてベンチにし寝(い)ぬ

 

をはじめ、あまり景気のいい歌はありません。まあ、澤村斉美がそういう歌を選んで引用しているだけかもしれないのですが…。

 

 「祖父」の歌、祖父が金銭的にもおそらく精神的にも辛い思いをしたであろうことに対して痛みをおぼえているように感じます。どこまで「敗れた」のかはすごく気になるところです。大金を失っただけで済んだのか、それとも信用取引とかで大損して命や事業まで奪われたのか。そのために家族の生活はどう変わったのか、あるいは変わらなかったのか。

 

 私も自分の資産運用残高の数字の上がり下がりを眺めることはよくありますが、ここ数年数字の乱高下がすごかったですけど生活に全く影響がなかったので放置していて、正直ただの「数字の上下」でしかなかったんですよね。だから、この人はこの「雨の匂い」のする「通帳」から、ただの「下がった数字」ではなくて「変わってしまった生活」を見ていたんじゃないのかなって思いました。もし俺がその時助けることができていたら、あんな暮らしはさせなかったのに…、みたいな後悔すらここにはあるような気もする。

 

 

再生数、インプレッション、リツイート 数が命のかたちを決める (yuifall)