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「一首鑑賞」-90

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

90.ひいやりと猫過りたり元号に先帝の死後の時間を数ふ

 (渡英子)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」で澤村斉美が紹介していた歌です。

sunagoya.com

 これは2002年の歌だそうなので、「平成」です。「平成〇年」っていう数え方には現在の天皇陛下がおいくつか、ということには全く関係がなく、先帝である昭和天皇の没後年数を数えているのだ、という見方が面白いなと思いました。

 

詞書に「『平成』元号を披露した小渕さんも鬼籍に入った」とあるので、歌の中の元号は「平成」を、先帝は昭和天皇を想定して読んだ。下句に意表をつかれた。

(中略)

掲出歌は、元号で数える年数はすなわち、先帝の死後の時間を数えることなのだという。現在なら昭和天皇死後23年目だ。新しい元号に示される時代を中心とした視点ではなく、過ぎ去った昭和の死者の視点を提示するところに透徹たる批評眼がある。

 

とあります。一方「令和」では上皇陛下はご健在ですので、この数え方は成り立たないですね。それも含めて面白いと感じました。鑑賞文に

 

上句の「ひいやりと」過ぎった猫は、心に過ぎった批評の感覚を絶妙に形象化している。死者を過去にとどめおいて、時間は容赦なく積み重なっていく。先の時代の何を理解し、整理し得ているのか、という問いかけを下句に読み取った。

 

とあります。

 時代が変わってもすぐに何かが変わるわけじゃない、という気持ちと、昭和が終わって30年以上が過ぎて、やはり多くのことが変わった、という思いがあります。それがよい方向であると考えるか、そうでないと考えるかは人によって全然違うと思う。でも私は、もし同じ年齢で生き直すとしたら昔よりは今の方がいいと思ってる。もしその時代に生まれていたら全然違ってたかもしれないですけどね。

 

 

Mがまだ印字されてる Sの字が消えるころにも紙はあるかな (yuifall)