「一首鑑賞」の注意書きです。
66.右クリック、左ワトソン並び立つ影ぞ巻きつる二重螺旋に
(資延英樹)
「右クリック」の後「左ワトソン」と来るとは思わず、一見して目をひく歌です。「影」はどこまでもつきまとう「遺伝子」の影でもあるでしょうが、鑑賞文にもあるように、彼らの業績が後世に落とす影響としての「影」、そして彼らの業績にまつわる暗い「影」でもありそうです。
「影」というのも意味深長である。二人の研究成果は後世に大きな影響を与えたから、その「影」と素直に読んでもよいが、文字どおり暗い影とも読める。
そもそも、彼らの「発見」の大きな手がかりとなったのは、別の研究者によるDNA結晶のX線解析写真であったことはよく知られている。撮影者は、ロザリンド・フランクリンという物理化学者で、ワトソン、クリックのノーベル賞受賞の前に病没した。二人が彼女の写真を不正に見たのではないかという批判は根強い。また、ノーベル賞受賞後のワトソンが人種差別的発言をして、名声が地に墜ちたことも記憶に新しい。
それにしても、歌のテーマはどちらかといえばモダンなのに、なんとなく俳句のように絵が浮かぶ不思議な歌です。「巻きつる」という言葉からの連想でしょうか。なんか
秋深し隣は何をする人ぞ (松尾芭蕉)
を思い浮かべました。
(*ところで、「秋深し」と覚えていたのですが本当は「秋深き」なのかもしれません。。)
ノーベル賞を受賞したのはワトソン、クリック、ウィルキンズの3名で、ウィルキンズの共同研究者でX線データを実際に取ったロザリンド・フランクリンは37歳の若さですでに亡くなっていたために受賞対象者から除外されています。彼女はワトソンが出版した『二重らせん』の中で「ヒステリックな女性」などと貶められ、その後フェミニズムのアイコンとされたのだとか。後日名誉が回復されて業績が再評価されているそうです。
そういえばマリー・キュリーの伝記、昔は『キュリー夫人』表記だったけど今は名前になってますね。色々なところで少しずつ世の中は変わっていくんだろうか。
魔女の鍋みたいにLightCycler煮えてる穢れた血のまま祈る (yuifall)