「一首鑑賞」の注意書きです。
61.薄闇のあなたの底へ降りてゆくわれは言葉の梯子をかけて
(加藤治郎)
砂子屋書房「一首鑑賞」で大松達知が紹介していた歌です。
「薄闇のあなたの底」という言葉からは男女の営みが(まあ別に「男女」じゃなくてもいいんですが、要は性的なつながりが)連想されますが、「言葉の梯子」という下の句にやられました。ノンバーバルコミュニケーションじゃなく、「言葉」で「あなたの底へ」降りるのか。これはときめきますね。
「薄闇のあなたの底」はもしかしたらそういう意味ではなくて単に「あなたの心の奥底の暗い部分」ということなのかもしれないのですが、「言葉であなたと繋がりたい」という切実な思いを感じさせます。
それにしても、「梯子」です。その頼りない感じがなんとも。鑑賞文には
ハシゴが壊れてしまったら、もう戻れないかもしれない。「言葉」という存在が人格をもって、自分の全体重を(ギシギシと音を立てながら)支えてくれているような、「言葉」に対する全幅の信頼があるのだ。
とあります。
「ハシゴが壊れてしまったら、もう戻れない」。それは、「あなたの底」から戻れないのだろうか、それとももう二度と「あなたの底」へ、たどり着かないということだろうか。現実的には後者だと思われるのですが、情景からは前者がイメージされます。梯子が壊れてあなたの底へ落ちてしまえば、もう戻っては来られない。
「言葉」でつなぐ、というコミュニケーションがうまくいってほしいと望む一方で、そのままあなたの底にいたらいいよ、という気持ちにもなる「薄闇」です。
いずれまた「言葉の梯子」をのぼって出て行くのかな。
月影に髪を掛けるわ、ここにきて、塔の闇夜を辿ってほしい (yuifall)
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