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小林恭二 『短歌パラダイス』感想 2-14「昔」

『短歌パラダイス』感想の注意書きおよび歌合一日目、二日目のルールはこちらです。

yuifall.hatenablog.com

 最後は「昔」です。

 

昔からそこにあるのが夕闇か キリンは四肢を折り畳みつつ (一郎次郎)

呪ひをいくつも唱へ子は昔ガガンボの影してひぐれの塀に (七福猫)

このあろはしゃつきれいねとその昔ファーブルの瞳(め)で告げたるひとよ (ぐるぐる)

 

 

昔からそこにあるのが夕闇か キリンは四肢を折り畳みつつ (一郎次郎)

 

 「一郎次郎」の歌、好きです。行ったことないけどサバンナの夕闇をイメージした。夕方になってキリンが四肢を折り畳み、休もうとしている光景があって、そこでキリンが長い長い命の営みを繰り返してきたことに寄り添うようにして、昔から夕闇もそこにあったのだ、という感慨です。味方チームの小池光は

 

キリンが肢を畳んでうずくまっている場所が、夕闇の原形であるということを言ってるんだよ。

 

と述べています。

 

 

呪ひをいくつも唱へ子は昔ガガンボの影してひぐれの塀に (七福猫)

 

 「七福猫」の歌は、ひぐれ、影が長く伸びる時間帯に、子供の影が「ガガンボ」の影のかたちになって塀に映し出された、ってことだと思うのですが、最初の「呪ひをいくつも唱へ」が怖いですね。呪いのせいで影がガガンボになってしまった、って感じがします。こうなると、影がそうなるだけじゃ済まなくて、だいたいは夜になるとガガンボに変身しちゃうんだな。多分、呪いは大人になった時に解けてしまったのではないかと思われます。

 後から鴇田智哉の

 

ががんぼの古い形が目に残る

 

という俳句を知って、ガガンボには「古さ」と結びつく何かがあるのかなって感じました。

 

 

このあろはしゃつきれいねとその昔ファーブルの瞳(め)で告げたるひとよ (ぐるぐる)

 

 「ぐるぐる」の歌は、歌そのものは難しくないのですが、「ファーブルの瞳」の解釈が面白かったです。

 

・「ファーブルの瞳」は、昆虫に熱中しているおたく的な人間の瞳。人間と関わるのが下手で病的な感じの人(大滝和子)

・「ファーブルの瞳」は観察者の目。蝶を観察するようにアロハシャツを見て褒めている(永田和宏

・別に、澄んだ目とか青い目とかそういう軽い受け取り方でいい(奥村晃作

 

 小林恭二は、それぞれに対して「大滝和子は人間と関わるのがいかにも下手そうだ」とか(失礼じゃね?)、「永田和宏は科学者だから」とか「奥村晃作はただごと歌を評価するから」とか、歌人の特性に当てはめて、「それぞれの念人が「ファーブルの瞳」に自分の短歌観を重ねあわせようとしたところは注目に値する」と書いています。

 そう言われるとすごく解釈しづらいのですが(笑)、私は好奇心に満ち溢れたキラキラの瞳と読みました。昆虫大好き!なファーブルみたいに、「このアロハシャツきれい!」って感じです。そんなキラキラした目で見られたら僕のこと好きなんじゃないかって思っちゃうよ…、って感じです(笑)。

 

 

 この勝負は難しいですね。どれも好きです。ですが、第一印象で「一郎次郎」かな。

 「一郎次郎」は吉川宏志、「七福猫」は河野裕子、「ぐるぐる」は穂村弘でした。

 

 ここまで読んできて思ったのは、「題詠」の読みは純粋な「一首読み」というよりも意外と状況に左右される、ということもあるのですが、一つ一つの試合の勝敗もそれなりに状況に左右されるんだ、とも思いました。勝ち負けの判定をその場でするのは多分すごく難しいんだと思います。

 この歌合2日目の勝負、結局どのチームも四勝(引き分け2)でドローだったんですけど、この結果は若干作為的なものもあるのかなー…、と。後半のどの歌が勝ってもいいようなシーンでちょっと調節したりとか…。あとは、「試合の流れを変えたい」とかいろんな理由で難しい勝負をどちらかに振ったりするシーンもあったので。

 例えば歌合2日間を通して河野裕子の歌は一勝もしてないんですけど、個人的には3首のうち2首は勝ってると思ったし、最後のこの1首も、多分「一郎次郎」チームがすでに4勝してて「七福猫」が3勝の状態だったら「七福猫」が勝ってたと思う。だから純粋に歌と歌の勝負ではなく、状況で勝敗が左右されることもあるんだろうな、と。あとは当然、味方チームの擁護と敵チームの攻撃があるわけだから、解釈のやり方によっても勝敗は分かれそうです。

 

 それにしても、チーム戦で歌を詠むという試みも、味方の歌をいい感じに解釈して敵の歌をなるべくけなす、というのも面白いなと思ったし、チーム内に素人がいたりするのも楽しかったです。あとは誰の歌だか分からないようになってるのもよかった。ただ、1日目と違って2日目は歌人同士の議論の内容があまり本に書かれていなかったので、もっと詳しく知りたかったなと思いました。

 一晩泊まって歌を作るの、大変だっただろうけど楽しかっただろうな!おそらく私が知らないだけで、学生の短歌会とかではこういう試合したりしているのかな、って思ったりもしました。

 

 

瞬きの速度で今はもう昔津波のように呟きたちは (yuifall)