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現代歌人ファイル その173-本多忠義 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

本多忠義 

bokutachi.hatenadiary.jp

泣きながら夢を見ていたあの空が混ぜてはいけない色に変わって

 

 歌集のタイトルは「禁忌色」だそうです。解説には、

 

歌集題の「禁忌色」とは美術用語で、混ぜ合わせると汚い色になるため混合を避けられる組み合わせのことだという。しかし本質的には、「禁忌」という言葉が持つ「罪」の側面に着目した命名であるように思う。

 

とあります。

 「混ぜてはいけない色」がこの「禁忌色」なんですね。「空が混ぜてはいけない色に変わって」というのは、すでに空では「混ぜてはいけない色」どうしが混ざり合ってしまって禁忌色をしている、というニュアンスなんだろうか。夢で「僕」と(禁忌の)「あなた」が混じり合ってしまったという意味合いなのかもしれませんが、その「泣きながら」はどういうことかな。嬉しかったのかつらかったのか両方なのか。

 

 この人は教育学部卒なんだそうです。プロフィールにはっきり教師をしているとは書いていませんが、

 

片親の生徒の自殺を知った夜ずっとトイレで爪を見ていた

 

という歌もあり、先生なのかな。これらと一緒に、

 

もう二度と子供の産めない君を抱く世界は思ったよりも静かで

 

二人いた息子はパンを焼かないでどっちも自衛隊に入った

 

従順なぼくはそうして雲を見るあなたが家族の話をするたび

 

などの歌も引用され、この「君」「息子」「あなた」と本人との関係がはっきりしません。恋人や妻、実の息子であるとも読めるし、生徒などの第三者であるとも読めます。

 

冬が来る前にいつかの坂道で坂道であなたに触れてぼくは壊れた

 

ともあって、「あなた」は恋人なのかな、って思ったんですが、じゃあ「君」はそうではないのかと言われると分からん。他にも「きみ」という二人称も使われています。単なる表記ゆれかもしれないし、でもやっぱり恋人ではない誰かのような気もする。

 

 「先生」に「禁忌」って重ねられるとどうしても生徒との恋愛を想像してしまいますが、発想が貧困すぎますかね。

 

できないのではないしないだけふたりきりの教室加湿器の音

 

指差した雲は幼く夏空の綻びをまた許しきれない

 

という歌を読むと、恋人は生徒だったのでは、とつい考えてしまいたくなります。「あなたに触れてぼくは壊れた」んだし。しかし、「家族の話」「もう二度と子供の産めない君」からすると、相手は生徒ではなく既婚の同僚なのかもしれないなとも思いました。伊藤左千夫

 

花匂ふ君がこころに夕暗のほのかに触れて身をあやまてり

 

も不倫(禁忌)の歌でしたよね。

 

解説には

 

 これらの歌(注;この文章の直前に引用された一連の歌のこと)は決して秀歌というわけではないが、本多が抱えている傷と喪失感を探るヒントになっているように思う。本多の歌は作中主体やそれを取り巻く状況は意図的にぼかされているようだが、決して淡くはない。輪郭はむしろはっきりしている部分が多いようにすら思う。

 

とあるものの、山田航もその状況についてはっきりとは書いていません。作者自身の状況は分からなくてもいいのかもしれないのですが、それでも「秀歌とはいえない」歌でも本人の状況であれば十分読ませることはできるのか、というこの解説に考えさせられました。私自身はどれが秀歌でどれがそうでないのか判断できるほどのレベルに達してはいないのですが…。

 

 

手を繋ぐ、あなたが笑う、首筋のにおい、あなたの、 離すための手 (yuifall)