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現代歌人ファイル その16-武井一雄 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

武井一雄 

bokutachi.hatenadiary.jp

風は野を俺はおまえを駈け巡り過ぎ去った夏 思い返すな

 

 かっこいい!スーパー攻め様みたい(笑)。「思い返すな」って。解説には

 

 ハードボイルドと言ってもいいくらいのかっこいい文体である。断言調の語尾は力強い印象を与えるが、しかしその一方でどこか湿った情けなさをも内包している。自分の弱さや過去の思い出にがんじがらめにされながらも無頼に生きていく男の姿が浮かんでくる。

 

とあります。

 

透きとおることのできないこの俺に君のすべては重すぎるのだ

 

 この歌もめちゃくちゃかっこいいですよね。でも確かに、ハードボイルドというか、うーん、女性との精神的つながりを拒絶してる感じがするんだよなぁ。

 

 武井の歌の本領は相聞にあらわれているが、「弱くて汚れた俺」と「純粋で美しい君」との対比が基本軸となっている。思えば思う程に「君」の存在は遠くへと離れてゆき、自らの孤独は逆照射されてゆく。苦みのある敗北の歌である。

 

と解説にあるんですが、現実の女性は「純粋で美しい君」じゃないんですよ。で、それを男に伝えたいんだけど、ハードボイルドの男はそれを拒絶するんだよね。いや、弱くて汚れた俺は純粋で美しい君には相応しくないんだ、って。こちらの愛や現実を受け容れてくれないの。現実じゃないところに心があるんだよ。だから、それで「苦みのある敗北」って言われても…、って女としては思っちゃうんですよね。この歌とかも、「透きとおることのできない」あなたのままでいい、って女としては言いたいんだけど、「いや駄目なんだ、きみを受け止めるだけの強さがない」みたいな。

 で、女性には心を許さなくてどうするのかっていうと精神的にはホモセクシャルと言いますか、強い精神的つながりを持っている相手は同性っていう。絶対に恋とかセックスではないんだけど、死ぬとき傍にいたいのは親友なの。なんというか、好きな女のために、彼女を思いながら死ぬんだけど、その時そばにいるのは親友みたいな。

 

君と僕の視線は闇を見喪い背中合わせにいた至近距離

 

 この至近距離にいるのは恋人なんだろうか、それとも友人なんだろうか。そんなにそばにいるのに、「背中合わせ」で向き合うことはないんですね。相聞歌としても読めそうですが、「背中合わせ」という言葉からはなんとなく同性の友人なのではないかという感じもします。でももしそうだったら「君と僕」じゃなくて「お前と俺」とかになるのかしら。やっぱり恋人なのかなぁ。

 

 

満たされぬことも一つの証左としお前は硝子の愛だったのだ (yuifall)