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小林恭二 『短歌パラダイス』感想 2-5「一郎」

『短歌パラダイス』感想の注意書きおよび歌合一日目、二日目のルールはこちらです。

yuifall.hatenablog.com

 五番勝負は「一郎」です。この頃、小沢一郎オリックスイチローが時の人であったとか…。2021年現在、小沢一郎衆議院選挙の小選挙区で敗北し、イチローは大リーグで活躍後引退しているので隔世の感があります。

 

こぽこんと一郎さんが靴の砂はらっていますたぶん海ですね (一郎次郎)

政変未遂とあの日の合歓とイチローの打球の軌跡まなうらに棲む (七福猫)

洋一郎の名をつぶやけば風は何処へ 祖父の帽子からきみの帽子へ (ぐるぐる)

 

 

こぽこんと一郎さんが靴の砂はらっていますたぶん海ですね (一郎次郎)

 

 「一郎次郎」の歌は、一郎さんが靴の砂をはらっているそばにいて、その砂をはらう音が「こぽこん」と聞こえたから、砂は海から来たんだろう、と感じている歌だと思いました。この砂は砂漠の砂でも公園の砂場の砂でも甲子園の砂でもなく、海だと。その理由が多分「こぽこん」だと思いました。

 小林恭二は、この歌は風景が0で、聴覚のみで成り立っているのではないかと書いています。「こぽこん」という音を聞いて、「一郎さんが靴の砂を払っています」。海の音を聞いて、「たぶん海ですね」と。

 道浦母都子

 

・一郎は作者の恋人で、あなたは海から戻ってきたんですね、の意味。匂いや風とともに、やさしく相手を見ている視線が感じられる。これにともなう淡々とした感情が見事。

 

と言っています。

 歌全体の雰囲気としてはすごく好きなんですが、一読して「一郎」である必要ある??みたいな感もあり、題詠として適切なのかはよく分かりません。

 

 

政変未遂とあの日の合歓とイチローの打球の軌跡まなうらに棲む (七福猫)

 

 「七福猫」の歌が一番、「小沢一郎」ないし「イチロー」をフィーチャーしていてド直球ですよね。「政変未遂」「合歓」「イチローの打球」、それが忘れられない、と。なんか昭和の警察小説みたいなものを連想しました(笑)。政権与党の大物代議士秘書の自殺が実は殺人ではないか!?みたいな謎を追いながら、情報提供者と野球場でビール飲んでる、っていう。その小説自体が回想の作りになっていて、冒頭に「昭和〇〇年のあの夏がまだまなうらに焼き付いている」みたいな感じ(笑)。

 小林恭二の解説が面白いなと思いました。合歓の木の「合歓」には、「歓びを合わせる」という字面から、セクシャルなイメージがあるそうで、「あの日の合歓」には「あなたと見た景色」+「あなたとの一夜」の両方の意味を読まなければならない、と言っています。また、

 

 「政変未遂」「あの日の合歓」の後に来る「イチローの打球の軌跡」は、「政変未遂」の緊張感と、「あの日の合歓」のエロティシズムを併せ持ち、なおかつ止揚している。

 その意味で、この歌の主人公は「イチローの打球の軌跡」である。他の要素は、極端な言い方をすれば、これを最高に見せるための舞台設定にすぎない。

 

と書いています。「止揚」って言葉久しぶりに見ました…。だから本って大好き。

 

 

洋一郎の名をつぶやけば風は何処へ 祖父の帽子からきみの帽子へ (ぐるぐる)

 

 「ぐるぐる」の歌は、「洋一郎」は誰なんでしょうね?「祖父」なのか、「きみ」なのか。他の人だとちょっと登場人物が多すぎるので、どちらかでしょう。「祖父」説をとる場合、風が祖父の帽子からきみの帽子へ吹いていくとき、おそらくこの「祖父」は亡くなっていて、今その血統は「きみ」に受け継がれている、と読めるので、「きみ」は我が子かもしれないと思いました。もしくはこの歌の<わたし>がすごいおじいちゃん子で、その愛が「きみ」に今注がれている、と受け取ると「きみ」は多分恋人になります。どちらにせよ「祖父」から「きみ」なんだろうから「きみ」は男性で作者は女性であると思われる。読みとしては自然ですが、祖父の名前を呼び捨てで呟くかな問題はありますね…。私、そんなことしたことないかも。。

 一方、「きみ」が洋一郎である説を取ると、これは愛が「祖父」から「きみ」へ移った、という意味に思えます。どちらの名前も洋一郎なのかもしれん。祖父と同じ名の「きみ」を愛してしまった、ということなのかもしれません。

 

 本文を読むと、作者が「洋一郎は祖父の名前」と明言しているようなので、「洋一郎」=「祖父」説になりますね。小林恭二は、祖父は西洋風の紳士であろう、と書いています。確かに名前を呟くとなるとそのくらいじゃないと…。「孫左衛門」とかではちょっと…。

 

 

 この中でどれを選ぶかってなったら、個人的には「七福猫」一択です。「一郎」って題で「小沢一郎」と「イチロー」を真正面から詠み込むってなかなかできる芸当じゃないと思います。しかも歌としての完成度も高いかと。「一郎次郎」の歌もよかったけど、やっぱり名前を変えても成り立つ感じが…。「ぐるぐる」もよかったけど、たまたまおじいちゃんの実名が洋一郎だったのかよ!ってなっちゃう(笑)。題詠ってお題をどうひねるか?って考えちゃいがちですが、ド直球で完成度の高い歌が来るとひれ伏すしかないというのを痛感しました。

 「一郎次郎」が加藤治郎、「七福猫」が荻原裕幸、「ぐるぐる」が杉山美紀でした。

 

 「一郎」しょうもない歌しかできなかったけどこのままにする(笑)。

 

 

「耐えるのは長男だから」と炭治郎 イチローさんは次男でしたね (yuifall)