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小林恭二 『短歌パラダイス』感想 1-10「並」

『短歌パラダイス』感想の注意書きおよび歌合一日目、二日目のルールはこちらです。

yuifall.hatenablog.com

 最後の10番目は「並」です。「なみ」という読み方に限定されており、「へい」も「ならぶ」もNGとのことです。

 

時計仕掛けの絵本をよめばすずかけの並木を抜けてまた出会う導師(グル) (加藤治郎

民族よ 寄するおもひは冷えながら並木に生るる花のしづけさ (岡井隆

 

 加藤の歌は、1995年の地下鉄サリン事件を受けての「導師」なんだろうなと思いますが、全体の意味を取るのが難しい…。

 なんか、どうしても「導師」に象徴される何か、現代日本のようなものを言っているのかなって連想してしまうのですが。だから、「時計仕掛けの絵本」は戦後日本の象徴みたいな感じで、「時計仕掛け」には「サラリーマン的な歯車、高度経済成長」と、「時計仕掛けのオレンジ(狂気と嗜虐)」の意味がかかってるのかなと思いました。次の「すずかけの並木」が何を象徴しているのかはよく分かりません。

 あと、「また」ってあるけど、最初は何なんだろう?もしくは、いずれ「また」出会うだろう、ということ?まあ、「導師」的な人は歴史上はじめてでも最後でもないでしょうが…。

 

味方チームは

・「時計仕掛けの絵本」は時間になるとぱっと開いて読むことを強いられる絵本ではないか。「時計仕掛けの絵本」「すずかけの並木」とコラージュ的にイメージをつなげていって最後に導師を出す、実に面白い構成。「仕掛け」と「すずかけ」が響いている。(小池)

・「時計仕掛け」を初句に持ってきて読者を驚かせている。ひとつひとつの言葉が立っているからこそ、持ってゆき方は当たり前でよい(河野)

・「また」に込められたニュアンスが面白い。今度は別の「導師」に出逢いそうで(荻原)

 

敵チームは

・絵本は時計がなくても読めるし、「また」という言葉も当たり前。意味内容が常識になっている(水原)

 

 

 岡井の歌も加藤と同様、現代日本に寄せて、みたいな意図を感じました。「民族よ」ですから、おそらくこれは日本民族ではないかな。「寄するおもひ」はどんな思いなんだろう。「冷えながら」なんだから、やっぱり、戦後薄れていく何か、みたいな感じでしょうか。「民族」という言葉から天皇の神性を連想しました。そういう、日本人の血のようなものは薄れながらも並木に生える花のように静かにそこにある、と。

 

味方チームは

・「民族」という言葉に対するノスタルジーでもあり、その限界に対する断念でもある。かつてと違って今は「民族」という言葉から喚起されるものは冷え冷えとしたものでしかない。そういう思いを述べている。下の句も秀抜。「並木」というと葉っぱを見てしまうが、その下でしずかに花が咲いている。これは我々が民族というものに熱い思いを託した時代がまずあって、そして今そうしたポテンシャルを受け止める力がない時代にきている。にもかかわらず、よく見れば花が咲いている。このあたり読めば読むほど深まってくる(永田)

・どちらも「並木」が使われていて、かたや「民族」でかたや「導師」が出てきて、ほんと師弟なんだなと思わせられた。岡井は新しいものをことさら出そうとしないで、着実に地味に攻めている(道浦)

 

敵チームは

・「民族」に対する「おもひ」からさまざまな文脈がひっぱりだせることは確かだが、その仕掛けは意外に表面的である(荻原)

・上の句だけでよい。下の句の様式性が過剰である(小池)

・「並木に生るる花のしづけさ」が綺麗にまとめすぎている。もっと鋭い形でないと納得できない(田中)

 

 

 加藤治郎の歌、「すずかけの並木」が何の象徴か分からないと書いたのですが、「時計仕掛け」「すずかけ」と韻を踏んでいたのですね。岡井隆の歌は、永田和宏の読みにすごく納得しました。

 

 私なら岡井隆を選ぶかな。加藤治郎の歌はモチーフが多すぎてよく分からない…。岡井隆の歌には瑕疵がないように見えます。ですが、議論を読んでいると岡井隆の歌は「下の句が不要」「下の句が綺麗にまとまりすぎ」という意見があり、読む人が読めばそう感じるんだな、と思いました。もしかすると歌人の目から見たら、岡井ならもっと鋭い歌が詠めるだろう、ということなのかもしれませんが…。

 

 それにしても「並」って色々あって詠みづらいですね。「人並み」みたいな感じで

 

人波に見失ってよ人並みの泡にもなれない私のことを

 

とか、「牛丼並盛」みたいな感じで

 

安い早いうまいのロストジェネレーション並牛丼の変わらぬ価格

 

とか作ってみたのですが、なんかどれもピンと来ない。特に「人波に」のやつは、いわゆる手癖っていうか、ああー、自分こういう歌作りがちだよな、みたいな感があって悩ましいです。

 私も結局並木にしてしまったのですが歌そのものは全く面白みもないし難しいなー。

 

 

かにかくに杜の都は恋しかり銀杏並木の悪臭でさえ (yuifall)

 

本歌取り

かにかくに渋民村は恋しかり

おもひでの山

おもひでの川 (石川啄木