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現代歌人ファイル その146-歌崎功恵 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

歌崎功恵 

bokutachi.hatenadiary.jp

死は橋を渡るごとしと思うときわれは美しき橋の設計者とならん

 

また一つ橋を越えてと君が言う夜更けの電話に自慰をさらして

 

 解説に

 

「橋」のメタファーが「死」と「性」の双方においてあらわれることも特徴的である。

 

と書かれていましたが、私もこの2首が印象に残りました。

 この人は生命保険の営業の管理職だそうなので、「死は橋を渡るごとし」「われは美しき橋の設計者」という感覚はすごく納得できる。その一方で、「また一つ橋を越えて」は何の橋なんだろうなー。「夜更けの電話」はテレフォンセックスなのかなと思ったのですけど、そこで「橋を越える」というのは、何かについて「それは(恥ずかしいから?)さすがに嫌だ」、と私が言ったことに対して、「君」が「まあいいからやってみなよ」と言った、みたいなことなんでしょうか。それとももっと深い意味合いがあるのかな。

 「死」が橋を渡るのは分かるんだけど、「性」はなんのことなんだろう。エクスタシーは一つの死、とか言うけど、そういう意味での「橋」なのかなぁ。それとも単純に、ちょっと冒険してみようぜみたいな感じなの?そして「性」の場合、橋を越えるとどこにたどり着くんだろうか。

 ちなみに『橋を越えて』という作品で第1回石川啄木賞を受賞しているそうなので、この人にとって「死」だけではなくて「性」の橋を越えることにも深い意味があるんだと思うんですよね。となるとやっぱり、「ちょっと冒険してみなよ」レベルの話ではないような気もする。

 

 あとはかぎかっこ付きで誰かの言葉が引用された歌が心に残りました。

 

「欠点を教えて下さいお守りにします」と少女は草笛を噛む

 

「思い出が消えないよ」って苦しみは空の上にもあるのだろうか

 

「また雪が降りだしたよ」はあいたいと変換されて耳に響いた

 

 最初の「欠点を教えて下さいお守りにします」っていうのが意味がよく分からないながら心に深く残りました。少女にとってこの人には欠点がなく見えたから、憧れの人にも欠点があるって知ることで強く生きます、って意味なのかな?って考えたんですけど、この人とこの「少女」の関係性がよく分からん。職業詠に混ざって引用されているので、なんとなく保険の受取人本人もしくはその家族かなって思って、だからもしかしたら親を亡くした少女と生命保険の担当者としての出会いだったんだろうか、とも思ったのですが、実際そうだったのかは分かりません…。

 

「踏め」と言われ畏れつつふむ漆黒のヒールで月に降り立つように

 

わたくしは日ごと日ごとに削られるあなたのための鍵穴として

 

 こんな感じのけっこう生々しいセックスの歌もあるのですが、情景を詠んだ歌も多く紹介されていて、全体的にとても読みやすくてでも色々想像をかきたてられ、読んでいて心地がよかったです。

 

「また雪が降りだしたよ」はあいたいと変換されて耳に響いた

 

これとかすごく好きです。

 

 今まで全然知らなかった歌人ですけど、『現代歌人代表』みたいなのに選ばれてなくても優れた作品を詠っている人はいっぱいいるんだなぁ、っていう感慨と、こうやってブログで紹介してもらってその作品に触れられるってことへの感謝の念をおぼえました。

 

 Twitterに短歌をあげていて、他の人の短歌も読むのですが、Twitterでは正直、どれがよい作品でどれがそうでもないのかいまいちよく分からないところがあって、とっさに反応できないことが多いです。そういう反射神経鈍いんですよね…。後からゆっくり味わいたい派。もちろん初見でいいな!とか好き!って感じる作品は自分の好みなんでしょうが、仮にそうでなくて読み飛ばしてしまったものでも、誰かに紹介されたり解説されたりすることで目に入ってくる歌や、後からしみじみといいなぁ、って感じる歌ってあると思うんです。だから、やっぱり、短歌のプラットフォームとしてTwitterは十分ではないのかもしれない、と思いました。もちろん私個人の感じ方ですけど…。

 

 

「いいんだろ」決めつけられてゆだねれば自由だ空を落ちるみたいに (yuifall)