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小林恭二 『短歌パラダイス』感想 1-7「盗む」

『短歌パラダイス』感想の注意書きおよび歌合一日目、二日目のルールはこちらです。

yuifall.hatenablog.com

 7番目は「盗む」です。あくまで動詞がルールで、名詞はNGということでした。

 

あるぱかに春の裸身をつつみこむ天道さまに盗まれぬよう (東直子

春虹を見ている隙に盗むべし赤外線のすべてをはずす (吉川宏志

 

 東の歌、最初意味が分からなくて、とっさに解説を読んでしまったのですが、

 

初句に出てくる「あるぱか」は、言うまでもなくアルパカ毛のセーターのことだろう。ひらがなで表記したのは、その柔らかさを強調したかったことに加えて、動物のアルパカでなく、日用品のセーターであることを表したかったからだと思われる。

 

とあり、自分の読解力のなさにへこみました。。

 あえて言い訳させてもらえば、1996年よりも今の方が動物のアルパカと触れ合う機会が多そうだし、アルパカのセーターを着る機会は少なそうなので、「あるぱか」と言われてとっさにセーターではなく動物を連想してしまったのは仕方ないと言えなくもない…ですが、やっぱりダメですね(笑)。

 セーターという目で読み直すと、天女の羽衣伝説みたいなのを思い出します。水浴びしている間に羽衣を盗まれて天に戻れなくなるやつ。その伝説では天から来た乙女が人間に服を盗まれるのですが、この歌では人間がお天道様に盗まれる、という逆転した発想になっていて面白いです。

 多分この辺りで連想を止めておいた方がいいのでしょうが、太陽、というか空に盗まれてしまうというのは発想を普通に進めると「死ぬ」ってことになるので、つまり風邪をひいて死なないようにセーターを着ようみたいに読めなくもないですが(笑)。

 

味方チームは

ボッティチェリの「春」を思い出す。「天道さま」なんてたどたどしい言葉が入ってきたのも、初々しいイメージを作るのに貢献している(小池)

・健康的な良さがある(河野)

・盗まれることを暗に期待した「盗まれぬよう」である。本当は「天道さま」に脱がしてほしいと思っている(田中)

 

敵チームは

・「盗まれぬよう」は「盗まれるよう」とすべきではないか(井辻)

・「盗まれぬよう」には予定調和的なまとまりがあって歌が小さく見える(三枝)

 

と言っています。

 

 

 吉川の歌は、これも初見では意味がよく分かりませんでした。「春虹を見ている隙に盗むべし」までは、短い春の虹に見とれている間に何かを盗む、ということで、基本的には恋の歌だと思ったんですね。で、「赤外線のすべてをはずす」となると、心の中の警戒を全て解いて、という意味なのかな?と。それともこの「赤外線」は「虹」と関係があるのかな?

 

味方チームは

・虹を見ている間に、虹に映らない赤外線をはずすということ。虹を見ているのは神ではないか。楽しい悪意の含まれた歌(水原)

・「虹」と「赤外線」を重ねたところで、虹の見えている以外の光を全部盗んでしまおうという、面白くで壮大な歌(井辻)

・盗む対象は虹をみているあなたであろう。あなたが虹に見惚れている間にあなたを盗んでしまおうという意味(永田)

・あなたが見ていてわたしが盗む、というのが基本で、下の句に個性的に展開している(三枝)

 

敵チームは

・恋の歌と読むには「赤外線」が邪魔。「あなた」と「赤外線」は両立しない。破綻している(荻原)

・「すべて」の具体的内容が明らかでないし、「はずす」も腰がすわっていない。赤外線を言うなら紫外線はどうなるんだということになる。後半は泥棒の歌としか読めない(小池)

 

 

 これはどちらが勝ちかと言われたら東直子しかないような…。吉川宏志の歌には色々な解釈がありつつも、やっぱり前半と後半がうまく結びつかなくて。

 思うに、これ、歌を作った時は何らかの理論的なつながりがあるんだけど後日読み返すとなんじゃこりゃ?ってなるたぐいの歌だったのではないかと感じました(違うかもしれませんが、私自身はそういうことがよくあるので何となく…)。多分「心のガードを解いて」みたいな意味でいいんだと思うんですが、虹からの連想で「赤外線」っていう言葉を使ったのが泥棒感を出してしまったのではないかと…。

 東直子の歌は「盗まれたくない」のか「盗まれたい」のか一見して分からないところがよくて、「天道さま」といかにも明るい感じなのにちょっと淫靡な雰囲気もあって面白いなぁと思いました。「盗まれるよう」とすべき、という指摘がありましたが、そうすると読みが一元化されてしまうので、やっぱり「盗まれぬよう」でいいと思うなぁ。

 

 ところで自分で「盗む」作るならどうかなーとか思って「盗む」でググってぼんやり眺めていたら、ハングルのNHK教育講座「みんなで学ぶフレーズ」に 

 

밤을 훔치러 간 일 (栗を盗みに行ったこと)

gogakuru.com

とあり、何その例文??と思い

 

ハングルの「みんなで学ぶフレーズ」に 밤을 훔치러 간 일 (栗を盗みに行ったこと) なぜ?

 

って歌作ってみましたがあまりにもひどいですね(笑)。

 

 

立ち止まるたび足首に絡みつくひそやかな冬 盗まれている (yuifall)