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現代歌人ファイル その105-糸田ともよ 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

糸田ともよ 

bokutachi.hatenadiary.jp

恋は水の階段をのぼり縋る詩もひかりのふちも鍵のつめたさ

 

 「恋」「水の階段」「縋る」「詩」「ひかりのふち」「鍵」「つめたさ」と美しい言葉てんこ盛りです。詩人の方だそうです。

 これ読んでて、「つめたい鍵」のイメージってどの世代まで伝わるのかなぁって考えました。私が一人暮らしを始めた頃、そのアパートの鍵はすでに「シリンダー錠」的なものではなかったし、今のマンションとかだとICカードだったりしますよね。「電話」も時代によってイメージされるものがだいぶ違ってくると思いますが、「鍵」もそうだなってふと思いました。

 

 この人の歌は、「水」「魚」「雪」のイメージが詠み込まれている、と解説にありました。

 

 「魚」というイメージも多い。水中を軽やかに泳ぐのではなく、むしろ溺れているようにさえ思える「魚」の描き方は、もがいて生きようとする作者の自己像を反映しているのかもしれない。(中略)札幌という土地柄もあってか、雪の歌、冬の歌も多い。しかも雪を「亡骸」と捉える歌が目立つ。死を沈め飲み込んでいく「水」と、触れれば溶けて消えてしまう「雪」との対比がそこでなされている。同様に死を内包していても、一方は永遠を、一方は刹那を象徴する。

 

とあります。

 

祝うべき枯渇? ことばも雪のように肌に触れると死ぬのね、こねこ

 

双手さしのべ雪の骸に濡れながら情はやさしく唾棄されながら

 

 雪は情や肌といった温かさに触れると溶けて骸になってしまうのですね。雪の女王みたいな感じだな…。なんか久美沙織の『小説ドラゴンクエストV』思いだしてしまった…。少年時代の、春風のフルート盗まれるやつ。詳しく覚えていないのですが、「春など醜くて嫌いだ、冷たい冬の完璧さこそ美しい」みたいな台詞を、春先の地面がぐちゃぐちゃしている頃によく思い出します。

 

宵宵にさしのべられる睡魔の腕はやわらかだったり骸骨だったり

 

 最後には「胎児」のイメージの歌が色々紹介されています。解説には

 

菱川は「胎内懐疑」という章にあふれている妊娠への違和感と「産む性」であることへの抵抗に注目している。その手がかりとしてエッセイにて綴られた糸田が胎児だった頃に起こった事件によるトラウマを紹介している。

 

とあるのですが、胎児だった頃に起こった事件によるトラウマって…。驚きのセンシティブさです。これって実際の事件?それとも『ドグラ・マグラ』的な何かなのか?よく分かりませんが、こうやって歌を読んできて、それだけセンシティブだと生きるの辛そうだなぁ、ってしみじみ思ってしまいました。

 まあ、ある程度生きるのしんどい人じゃないと短歌なんてやらないのかもしれませんが、私は特にそういうタイプの人間ではないので何とも言えないです。

 

 

掴めない水を濾過して だいじょうぶ、あれはあなたの体液だもの (yuifall)