山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
小笠原魔土
ロンドンの墓場のにおいのする髪をあなたの胸に押しつけている
おおー。ペンネームからして「魔土」ですが、服は常に黒で、錬金術や魔術、タロット占術などを好んでいるようです。「満月」「黒猫」「不死者の君」「黒マント」「蝙蝠」など、魔女っぽいモチーフがふんだんに使われています。しかし「墓場のにおい」って言われるとアダムス・ファミリー思い出してしまうわ。まああれは舞台アメリカですけどね…。ロンドンって土葬なのかなぁ。
この人の本職は研究職のようですが、
無機質に並んだ数値のそれぞれに希望と疑問がこめられている
みたいなわりとリアル世界な歌に混じって
ニンニクと太陽光の毒性を分析している私の同僚
という、同僚は吸血鬼?みたいな歌もあり面白いです。東海大学大学院海洋学研究科修士課程修了みたいです。海洋?海の生き物?と思ったのですが、
人間が体内に持つ色彩は外側よりもずっときれいだ
見学の胆石手術の時に見た脂肪によく似た菜の花の色
みたいな歌を見ると、医療系の研究職なのかなという感じがしますね。
恐竜の次は人類その次は実体のないエネルギー類
っていうのは「地球の覇者」という意味なのかな?解説には
小笠原が究極的に持っている思想は生殖への疑念である。生殖をして生命をつむぎ続けることはある種の不死であり、その不死に力を与え続ける医療という世界に自らは携わっている。しかし自分はいつかその悪夢のような「不死」が終わることを望み、増殖を拒んでいる。
とあります。
究極のお仕事なのだ増殖が理由は全く知らないけれど
うーん、この人が生殖あるいは増殖に持っている疑念、それ自体を否定するわけではないのですが、医療って、「不死」に力を与える仕事という訳ではない気がする。むしろ「不死」と戦う仕事じゃないかな。私が「不死」「増殖」という言葉から真っ先に連想するのは癌細胞です。つまり、人というか生物というか正常な細胞は常にmortal(死すべき運命の)存在であって、immortal(不滅の、不死の)存在というのは悪質なコピーなわけです。ですが、この人が人間の生殖そのものを「悪性新生物である」と認識しているのであればそうなのかもしれない。
こういう人の「数値にこめられた希望」って何なんだろうな、って考えます。
わけあって絶滅しました図鑑には殺し合ったと書かれるだろう (yuifall)
*こんな歌作ってみたけどAIに滅ぼされる説もありますよね。その場合は下の句何だろうな(笑)。