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現代歌人ファイル その26-小笠原和幸 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

小笠原和幸 

bokutachi.hatenadiary.jp

鈍牛が乾草を食む鈍重に生を咀嚼し死を消化する

 

 岩手県在住の歌人のようです。青森の蝦名泰洋といい、福島の三原由起子、井上法子といい、なんか東北の歌人って「土着」と言われがちな気がします。岩手、青森は石川啄木寺山修司に象徴される一種の暗さがあるからかな…。福島は震災と原発で全然違った意味合いになってしまいましたが。

 

俺ひとりなくても何も変はらないだらうが今朝の飯食つてゐる

 

 これは、そりゃそうだろ系の歌ですね。身も蓋もない系列の。こういう素直な歌好きだ(笑)。解説に「かなり性格の悪い山崎方代」と書かれてて笑った。

 ページの最後に連作載ってるのですが、これがすごいです。

 

お前は書け泣き言かまた繰り言でしかない歌をだらだらと書け

お前はするな死後もこの世に残るものただの一つも建設するな 

お前はほざけ一生は苦だと苦の外のものではないと死ぬまでほざけ

お前は進め光よりやみそしてまた次なる無明の風を突つ切れ

 

すごい迫力だなー。この「お前」って自分のことなんだろうな。解説がまたよくて、

 

ある一定の縛りを設けて連作を書いた時の歌の輝きは尋常ではない。読めば読むほどテンションがあがっていく構成になっており、次から次へと繰り出される言葉のナイフの鋭さにはジェットコースターのような興奮すら覚えてくる。これは小笠原がしっかりと読者の視点を意識しており、読者の心理状態を自在に操る短歌をつくる術を心得ているからである。エンターテインメントの世界では当たり前の技術であるが、短歌連作でここまで巧くできる人はそう多くない。

 

と書いてあります。匿名の死、みたいな死生観をこういう連作にすることによってちょっと遊んでいるというか、言っていることは暗いんだけどやってることが楽しそうなんだよね(笑)。これが「自己戯画化」ってことなのかなと思います。なんか、暗いこと考えながらも完全には浸ってないの。こうやって見せたら面白いかな?ってどこか楽しんでる感じがする。そのエンタメ性は、自分の駄目さをとことん弄んだ石川啄木や、元祖サブカル寺山修司にも通じるのかもなーと思いました。

 

 

橙の蝿取紙にしがみつく黒き死 下で死を喰う自分 (yuifall)