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現代歌人ファイル その86-沢田英史 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

沢田英史 

bokutachi.hatenadiary.jp

うかうかと自分を差し出してしまひさうなポストの口がゆふぐれに開く

 

 うかうかと。言葉の使い方に心惹かれました。こういう言葉に出会うといつも、

 

ミルフィーユむごく崩せるけふの日のこの切り岸のごときいつとき (高木佳子)

 

に初めて出会った時の衝撃を思い出します。

 ポストの口に何かを差し出すとき、普通なら「どこかへ送り出す(届ける)ため」と考えるのですが、この歌からは、ポストにそのまま食べられてしまうような感じがします。ポストの口の中に異空間があって、そこへ自分を「うかうかと差し出す」ような。だからどこへも届かないんです。

 

くろがねの路上駐車は街の灯をサイドミラーに閉ぢ込めてをり

 

 都市詠が多く紹介されますが、「夜の雨」「黄昏」「月の照る」など、いずれも夕方から夜の光景が想像される歌です。解説には「短歌を始めたのは1989年、親友の死によって「思いが不意に歌の形をとった」という」とあり、最初に「親友の死」という出来事があるから「夜」がテーマなのでしょうか。親友はなんで亡くなったんでしょうね。この人は1950年生まれだそうなので、1989年だと39歳ですよね。親友も同年代だろうし、若すぎる死です。

 

この空に数かぎりない星がありその星ごとにまた空がある

 

 ああ、そうだなぁ、ってしみじみ思った。そうだよね。当たり前のことなんですが、「空」と「宇宙」の感覚的な違いを鋭く捉えていてはっとしました。こういう、自分の中からは絶対に出てこないけど「そっかぁ、そうだな」って思わせてくれる言葉ってすごく好きです。出会ってよかったという気になります。

 

誰もゐぬところへ不意に降りてきて人間みたいな顔をしてゐた

 

さういへば思ひつづけてゐたつけなどこへ行つても客でしかない

 

 歌集のタイトルは「異客」だそうで、このような、自分はどこか(宇宙?)から来た「客」である、ということが繰り返し詠われます。

 

 最後に「異客」以降の歌が引用されています。

 

ゆく車(カー)の流れは絶えずあかねさすテールランプを海渡しゆく

 

 これどこかで見たことあるな…って思ってたら、方丈記ですね。ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。ですね。解説に「該博な古典知識を生かした本歌取りの現代化も巧みである」とあり、他に紹介されている歌も本歌取りなのかもしれないのですが多くは元ネタが分からん。。無教養の悲しさです(笑)。

 

 

万葉よりこひはうすきと言ひますな既読スルーのすべなかりつる (yuifall)

 

本歌取り

我が背子に復は逢はじかと思へばか今朝の別れのすべなかりつる

(高田女王/万葉集 第4巻 540番歌)