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現代歌人ファイル その84-吉田漱 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

吉田漱 

bokutachi.hatenadiary.jp

小さなる死を私にうちかさね重き死となることありや 夏よ

 

死んだ子どものあそぶ部屋、ドアよりその母のつぶやき――Viens, ma chere

 

 「死」を詠う歌が多いのですが、不思議と明るい雰囲気です。フランス語も相まって、地中海あたりの乾いた夏の死をイメージしました。

 

ある午后に死者のおまえとわたくしと始める風の卓での食事

 

 なんかベンサムの逸話思いだします。自分の遺体を標本にして飾るよう遺言残して、大学評議会の会議に参加して、議事録に毎回「ベンサム先生ご出席、だが賛否には加わらず」って記載されてんの。あとは頭部だけ学生のいたずらの対象にされまくってレプリカになっているとか…。頭をサッカーボールにされちゃったんだよね(笑)。やった方もよくやるよなー、本物のミイラの頭でサッカーしますかね?学生のこういう馬鹿なノリすごい好きなんですが、現代だと炎上必至ですね(笑)。

 

 恋の歌もいくつか紹介されています。

 

その五月、熱病む花びらの触れあいてしばしのち羞しかりにし

 

これとかセクシーでロマンチックですね。

 

さかしまに望遠鏡をのぞく夕べかわらぬ十六才の笑みがふりむく

 

 これも好きです。「十六才の笑み」の相手は恋人なのかな。1922年生まれの方なので、戦中かもしれない、と思いながら読みました。十六才という年齢の感覚も、恋の重みも、今とは全然違っていただろうと。「かわらぬ笑み」という言葉に、もしかしたら幻の人(や、亡くなった人)なのかもしれないとも思いました。遠くにいるあの人はいまもかわらぬ十六才の笑みのままである、みたいな…。

 

 「アララギ」系の歌人で、紹介されているのは皆比較的若い頃の作のようです。「アララギ」というと自然詠というイメージがあったのですが、こんな精神性の高い歌風の人もいたんだなぁと…。それにしても毎回、「現代歌人ファイル」まとめた山田航はすごいなぁって思ってます。

 

 

予め簒奪された生として硝子に核の犇めくを見る (yuifall)