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読書日記 2024年5月29日-6月4日

2024年5月29日-6月4日

万城目学『ホルモー六景』

新田次郎八甲田山死の彷徨』

吉村昭羆嵐

小林照幸『死の貝 日本住血吸虫症との戦い』

・佐田三季『彼は死者の声を聞く』

・神田佳一、菊池良『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら 青のりMAX』

・アーヴィン・ウェルシュ池田真紀子訳)『T2 トレインスポッティング』上下

・柚木麻子『あいにくあんたのためじゃない』

・柚木麻子『名作なんかこわくない』

レイモンド・カーヴァー村上春樹訳)『大聖堂』

 

以下コメント・ネタバレあり

万城目学『ホルモー六景』

鴨川ホルモー』のスピンオフあることを知って買ってみました。どれも面白かったです。「長持の恋」泣くだろ…。泣いたよ。あとは芦屋の元カノ巴ちゃんの話が好きでした。芦屋やべー男ですがなんでこんなモテんの?長身イケメン京大生だから?同志社にもホルモーサークルできんのか!しかも外国人メンバーが!ってわくわくしました。一方丸ノ内編は、東京にもあるんかい。東京は京都より歴史浅そうだよね。御茶ノ水女子と一橋が登場しましたが、あとどこなんだろう。京大あるなら東大は絶対入るでしょ。京都の方は結局同志社入れて5大学だし、東京もあと東大、慶応、早稲田で5大学かなーとか考えました。もしくは早慶ではなくMARCHのどこかなのか?どんどん続き読みたくなりますね。そして巴ちゃんには別の男と付き合ってもらいたいですね。

 

新田次郎八甲田山死の彷徨』

 Wikipedia三大文学なるものを知り、原本にあたろうと思い購入。以前GWに八甲田山を車で走ったことがありますが、路肩にすごい雪積もってて驚きました。真冬はマジでヤバいだろうなと。八甲田山や恐山のあたりは、今でも冬季は道路閉鎖されて通れないみたいですね。

 自然の脅威の前に人間は無力だなと思ったし、実話としてものすごく恐ろしいのですが、『消された一家―北九州・連続監禁殺人事件―』(豊田正義)みたいなのに比べると「もしかしたら我が身にも…」的怖さではないです。だって真冬の山に行かないからね…。函館の「摩周丸」の展示で見た青函連絡船の洞爺丸事故の方が「もしこの船に乗ってたら…」的怖さがありました。

 それにしても八甲田山の遭難は世界最大の山岳遭難事故らしく、日航機墜落事故も単独機事故としては世界最悪の航空事故らしいし、洞爺丸事故も1000人以上が亡くなっていて世界6番目の海難事故らしいし(海難事故は亡命等の超過乗船で死亡者数が特定できないものもあって諸説あるそうですが)、なんなら世界最大の海難事故江亜沈没事件も日本の占領下の中国でかつて日本企業によって運行されていた船が中国に渡ったあと旧日本軍の機雷に接触して沈没して起きたらしいし、日本大丈夫か…と思ってしまった。

 

吉村昭羆嵐

 これもWikipedia三大文学の原本です。大正時代に実際に起きたヒグマによる殺傷事件を元にした小説。去年あたりから熊が人里に出没して問題になり、「熊を殺すな」的な電話が殺到するなど更なる問題を引き起こしたりしましたが、これ読んだら身の毛がよだつというか、そこに暮らしてない人間がどうこう言えることじゃないと思うよ…ほんとに…。

 

小林照幸『死の貝 日本住血吸虫症との戦い』

 これもWikipedia三大文学の原本です。明治~平成の100年をかけて風土病の原因を特定し、その原因である日本住血吸虫の中間宿主となるミヤイリガイを撲滅し、日本住血吸虫症を根絶させた話。風土病や公害って、その症状以上の怖さがある気がする。土地に憑く地縛霊的な怖さというか。特に明治~戦前なんて皆生まれた土地にがんじがらめだっただろうし…。1つの病気の原因を突き止めていく過程で、大学病院の教授だけでなく地域の開業医が大きい役割を果たしていたり、地元の方が訴える症状をきちんと受け止めることが感染経路の特定に繋がったり、人に寄り添うことで道が拓かれていくのが感動的に思えました。

 何かで知ったのですが1950年代には医療の知識が倍化するのにかかる時間は数十年単位だったそうなのですが、今は50日くらいらしいです。確かに今の時代だったら新規の虫卵出て来た時点で遺伝子解析かけてどの種の近縁か特定し、そこから逆算して中間宿主をあぶり出し、って数日でできそうですもんね。今のネット時代には信じられないような、情報交換もままならず知見も乏しい明治大正の時代から100年間をかけて風土病を克服してきたような先人の努力が今に繋がっているのだなぁとしみじみ思いました。以前読んだ『エキリ・コミッション 謎の感染症に挑んだ医師たち』(二至村菁)を思い出しました。

 

・佐田三季『彼は死者の声を聞く』

 受がクズのBLって珍しいので読んでてちょっと驚きました。攻に「お前その男はやめとけー」って言いたくなるのあんまないですよね。最終的には共依存的な終わり方で、まあーハッピーエンドなんですけど、とても葛藤を感じた。というのは普通のBL小説だとしたら別に予定調和的なハッピーエンドに何の疑問も抱かないのですが、筆力高い人が絶望的な状況を描けば描くほど、あーこれハッピーエンドにしなくてもよくね?どん底エンドでよくね?って思ってしまうので…。木原音瀬の『COLD』シリーズを読んだ時にも「この4人全員ハッピーエンド無理だろ」と思ったのですが、木原音瀬も今回の佐田三季も筆力が高いので、絶望的な状況を打開してハッピーエンドにもっていくまでを丁寧に描写してくれるんですよね。しかしその筆力があれば、むしろハッピーエンドにする必要ないんじゃ、そのままJUNE的(あるいは純文学的)救いなしエンドでいいのでは、と思ってしまうところに葛藤がある。でもその方向に突き詰めて純文学に行ってしまうと今度はBLであることが邪魔になるのでその匙加減がなー。尾上与一『蒼穹ローレライ』なんてストーリーがよすぎてあの終わり方もよすぎたのでもはやBLじゃなくてもいいのではと思いましたが、でもBLじゃなくすると『永遠の0』(百田尚樹)になっちゃうしなぁ。結局筆力高いBL作家が一般行ってしまうのもそういう葛藤があってのことなのかなぁと思いました。BLって結局予定調和的ハッピーエンドを求められるエンタメなので、それを描きたくなくなったら厳しいだろうなと。その点木原音瀬は男同士(しかもリアルなゲイもの、社会派ものではないBL)であることに説得力を持たせつつハッピーじゃないエンドもあるのですごいなと思います。

 

・神田佳一、菊池良『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら 青のりMAX』

 これは第一弾に比べてかなり退屈な本でした。なぜこんなにクオリティが違うのか分からないくらい面白くなかった。多分内容を基本から変えすぎだからかと思います。面白かったの「燃え殻」くらいですがこの人の元の文体知らないので何とも…。この本に比べたら、ネットで無料で読める大喜利的な「背後で爆発が起きて振り返る という文章を色々な有名人が書いたらどうなるか」という企画のがよっぽど面白いです。

ameblo.jp

 それにしてもなんで森博嗣京極夏彦がないんだろうなー。かなり特徴的な文体だと思うけどなー。

 

・アーヴィン・ウェルシュ池田真紀子訳)『T2 トレインスポッティング』上下

 『きっとあなたは、あの本が好き。 連想でつながる読書ガイド』(都甲幸治など)のおすすめ本でした。しかしなんか対談と内容が合わないような…と思っていたら、この『T2』は続編でした。『トレインスポッティング』という本が別にあるそうです。なんと…。登場人物が同じなので解説読むまで気づかなかった…。『トレインスポッティング』の方は電書版がなかったのでやむなくリアル本を購入して今届くの待ってるとこ。

『T2』の方はほぼセックス、ドラッグ、暴力の話なので正直読んでてだるかったです。イギリス(というかスコットランド)下層階級の閉塞感?なのか?ポルノ映画撮影シーンとかセックスシーンが多すぎて目が滑るのなんの。キャラクターごとに文体が違ってて考えてることも違っててという面白さはあるし、一つ一つの文章はとてもよくてワンフレーズにおおっと感じさせるものが多いのですが、トータルとしての内容が、正直こういうの読んでどう思えばいいのか分からん。どうしてこうなった感もあるし一方でこいつらはこうでしかなかっただろう感もあるのですが、アウトロー小説かっこいー!くらいのミーハーさでいいのか?

 

・柚木麻子『あいにくあんたのためじゃない』

 私「ざまあ系」好きじゃないのでこれはなぁ…。なんか、片方(女性やマイノリティ)を一方的に弱者で正義側、片方(男性)を強者で身勝手な側に仮定して「ざまあ」する話が複数含まれていてうーん。。。ってなった。マジで片方(ネットに晒された方、騒音をなじられた方、追い回されたりぶつかられたりした方)は全然悪いことしてなくて、相手は悪気なくやってて、って現実にも確かにそういう面はあるんだけど、それに「ざまあ」することになんでこんなにスカッとしないんだろう。分からない。小説読んでるというよりネットで嘘松読んでる感じがするからだろうか。女の願望駄々洩れみたいな。しかし真偽不明のネットと違って小説は明らかにフィクションなんだから願望駄々洩れでもいいじゃんと頭では思うので、単に好きじゃないという感情的な問題かもしれない。

 まあ、現実について言うと、個人的には、相手が迷惑行為していなかろうがしていようがネットに晒す行為は大嫌いです。自分で迷惑行為をして撮ってネットにあげるのは愚の骨頂ですが、迷惑行為している他人を「こんなマナー違反がいる」って撮って晒し上げて正義面してる方にも虫唾が走る。

 

・柚木麻子『名作なんかこわくない』

 フランス文学、日本文学、イギリス文学の名作の紹介と感想みたいな本。「女の生き方」みたいな感じの内容が多かったです。『グレート・ギャツビー』とオリエンタルラジオを重ね合わせたり、『風と共に去りぬ』と『若草物語』を対比したり読み方が面白いなと思いました。これから読みたいなと思った本もいくつかあり、今まであまり古典の恋愛小説って読んでこなかったのですが時々読んでみてもいいかもなー。

 この人のエッセイや小説、1つずつしか読んでませんが、女の世界(女の友情)を描くのが好きなんだなと感じました。

 

「へえ、柚木さんて女子校出身なんですか。どうりで。デビュー作の『終点のあの子』を読んで思ったんですけど、女子校って陰湿でドロドロしていて本当に怖いですね。柚木さんは女の集団の中で器用に立ち回れそうですけど、私は無理だなあ……」

 初対面にもかかわらず、そんな風に言われることが増えてそのたびに落ち込んでいる。「女同士はドロドロしていて怖い」そんな価値観と戦うつもりで作品を書き続けているのだけれど。

 やればやるほどその反対のイメージを広めていそうで、自分の未熟さや能力のなさに悩むことしばしばだ。

 

と書かれてて、いつも思うんですが、「女の集団」って、集まる女によるだろ。男だってそうじゃないの?女ってひとくくりにされて分かったように言われるの心外よね。

 全然関係ないけど、ここで引用されてるイギリス文学に描かれたイギリス社会(貴族やアッパーミドル)と『トレインスポッティング』で描かれるイギリス社会(下層)の違いがエグ過ぎて驚くわ…。格差社会…。

 

レイモンド・カーヴァー村上春樹訳)『大聖堂』

 色々な読書本でお勧めされていたので読んでみました。『熱』『轡』『ぼくが電話をかけている場所』『大聖堂』が好きでした。『ささやかだけど、役にたつこと』はメッセージ性がちょっと分かりやすすぎるように感じてあんまり響かなかった。『コンパートメント』『羽根』の方が好きかもしれない。『ぼくが電話をかけている場所』は井戸の中かもしれないなと思いました。この短編について都甲幸治が「次々と不条理コントみたいな状況になるんですよ」とか書いてて笑いました。そんな読み方してもいいのかぁ。『ささやかだけど、役にたつこと』にしても「ユルい」って書いてるし。村上春樹は「悲しい、ヘビーな話」と書いていたので、都甲幸治の読み方に驚きました(というか、私も若干「ユルいな」と思ったんですけど。なんだよあのオチ。ベタすぎだろ)。

 カーヴァーは日本でも80年代に流行ったらしいです。知らなかった。他にも訳本出てるのでいずれ買ってみようかな。