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05x10 - The Day the World Went Away 感想2

 POI感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

 前回はこちら

yuifall.hatenablog.com

 フィンチを追いかけるルート&ショウ。マシンがルートに車の番号を教えたとかで(ゴッド・モードならびにアナログ・インターフェイスというステータスがあるせいで、オープンシステムとクローズドシステムの明確な違いもよく分からん…)、フィンチの乗る車に追いつきます。そこで激しい銃撃戦になり、ルートとショウは最後の言葉を交わし合う。

 

So I was thinking about your thing.

それでね、私はあなたの言ったことについて考えてた

My thing?

あたしの?

Your whole "I'm crazy and the world's just a simulation" thing?

あなたの言った、「あたしは狂っててこの世界はただのシミュレーション」ってやつよ

It's a little like when Harry had me locked up and I was questioning everything.

ハリーが私を閉じ込めて、私が全てを疑ってた時とちょっと似てるわ

Can we talk about this after the whole lethal shootout thing?

ねえ、そのことはこの致命的な銃撃戦の後で話さない?

No time like the present, Sameen.

今しかないわ、サミーン

Besides, if this is just another simulation, who cares if we die?

それに、もしこれがただのシミュレーションの1回だったら、私たちが死んだところで誰が気にする?

Anyway, Schrodinger said at its base level, the universe isn't made up of physical matter, but just shapes.

とにかく、シュレディンガーは言ったの。基本的に、宇宙は物質でできているのではない、ただの形だと

I thought that might make you feel better.

そう思えば気分がよくならない?

Seriously?

マジで言ってんの?

A shape, you know? Nothing firm.

形よ、分かる?何も確かなものはない

What it means is the real world is essentially a simulation anyway.

つまり、現実は本質的には結局のところシミュレーションだってこと

You are the last person I should have confided in about this.

あんたにあの話なんてするんじゃなかったよ

I liked that idea.

私はその考えが好き

That even if we're not real, we represent a dynamic.

私たちが現実じゃなかったとしても、私たちは動態を象徴している

A tiny finger tracing a line in the infinite.

小さな指が永遠の線を描くように

A shape.

形よ

And then we're gone.

そして私たちは去るの

That's supposed to make me feel better?

その考えって素敵じゃない?

I'm a shape?

あたしが形?

Yeah. And, darlin', you got a great shape.

そう。そして、ダーリン、あなたは素敵な形だわ

I swear to God, you flirt at the most awkward times.

神に誓って、あんたは一番おかしな時に口説いてる

I know.

分かってる

Listen, all I saying is that if we're just information, just noise in the system... we might as well be a symphony.

聞いて、私の言いたいこと。もし私たちがただの情報で、システムのただのノイズなら…私たちはシンフォニーになるみたいなものよ

 

 この会話聞いていて、If-Then-Elseの回を思い出しました。シミュレーションの中で、死を目前にしたルートがショウに愛を打ち明けるシーン。あの時も今回も「今じゃない」と話を打ち切ろうとするショウに、「今しかない」とルートは返します。そしてショウに大切な言葉を告げる。「私たちは一つよ」と。

 ルートは自分が死ぬって分かっていたんだとこの会話を聞いて思った。そして、マシンのシミュレーションはやっぱりすごかったと感じました。ルートが何のために戦って死ぬのか、死を目前にして誰に何を話すのか、全て分かってた。だからこそ、マシンが自分の全てを知っていると信じたからこそ、ルートは「マシンがいる限り誰もいなくならない」=マシンの繰り返すシミュレーションの中で私は私として行動し続ける、と言ったんだと思います。

 

 フィンチを奪還し車で逃げるルート。ショウとはここで別れることになります。

 

You should have just left me.

君は私を置いて行くべきだった

Not gonna happen, Harry.

そんなことは起きないわ、ハリー

You're bleeding. Please, we need to get you to a hospital.

君は怪我してる。お願いだ、君を病院に連れて行かないと

Not a chance. It's the first place they'll be looking for you.

そんなことはできない。彼らがあなたを探すならそこが最初の場所よ

You can patch me up when we get back to the subway.

地下鉄に戻ったら手当してくれるでしょ

You've had plenty of practice with John.

あなたはジョンで十分練習してきたもの

I'm so tired of this. Everyone we've lost.

私はもうこんなことにはうんざりだ。皆を失った

Elias...

イライアス…

They all made choices.

彼らは自分で決めたのよ

They all died for something they believe in.

彼らはみな、信じるもののために死んだの

And anyway, the way I see it... they're not gone, Harry.

それに、どちらにせよ、私の知る限り…、彼らはいなくなってはいないわ、ハリー

I mean, they're dead, but they're not gone.

つまり、彼らは死んだけど、でもいなくなってはいない

You must have figured this out. I'm not in a metaphysical mood.

分かってほしい。私は形而上学的な話をしたい気分ではないんだ

I'm not talking metaphysics, Harry.

私は形而上学的なことなんて話してないわよ、ハリー

You built it, but you refuse to accept what you created.

あなたはそれを作ったのに、自分が作ったものを受け入れることを拒絶している

I mean, Shaw's a little screwy right now, but she's not wrong.

つまり、確かにショウは今ちょっとおかしいけど、彼女は間違っていない

We're all simulations now.

私たちは皆今シミュレーションの中にいるの

In order to predict what we do... she has to know us.

私たちのすることを予測するために…彼女は私たちを知る必要がある

And she's gotten better and better at it.

そして彼女はどんどんそれが上手になった

And the people she watches the most, she knows the best.

そして彼女が最も見た人たちは、彼女の最も知る人たちになった

Better than we know ourselves.

私たちが自分を知るよりもよく知ってる

Nathan...

ネイサン…

Elias, Carter... they're all still in there.

イライアス、カーター…。彼らはみなまだそこにいる

The Machine's still watching over them.

マシンがまだ彼らを見てる

She's watching over us too.

彼女は私たちのことも見てるわ

As I was saying, this is the next world, Harry.

私が言ったように、これは次の世界よ、ハリー

The world you built.

あなたが作った世界

And as long as the Machine lives, we never die.

マシンが生きている限り、私たちは誰も死なない

Listen, I know you have apprehension about what the Machine is.

聞いて、あなたがマシンの存在に不安を抱いていることは知ってる

About what she will become.

彼女がどうなるのかについて

And I trust you, Harold.

そして私はあなたを信じてる、ハロルド

I walked in darkness for a very long time until you guided me to light.

私はあなたが光のもとに導いてくれるまで、ずっと長いこと闇の中を歩いてた

And I wouldn't change any of it.

そして私はそれの何も変えていない

But we're not going to win this way.

でもこのやり方じゃ勝てないわ

And we can't afford to lose.

そして私たちは負けることはできないの

When the time comes, you'll know what to do.

その時が来れば、あなたも何をすべきか分かる

And I know this is an ugliness you never wanted, but sometimes you have to fight a little.

これはあなたが決して望まない醜悪さだと分かってるわ、でも時々はあなたも少しは戦わないと

We're fighting a war that's already over.

私たちはすでに終わった戦争を戦っているんだ

All this mayhem?

この騒乱を?

It isn't some plucky underground resistance movement.

これは勇気のある地下抵抗運動なんかじゃない

It's an extinction burst.

ただの悪あがきだよ

 

 これが最後の会話になってしまって、フィンチはどれほど後悔しただろう。

 

 ルートの話すことを聞いていてすごく切なかった。マシンは私たちを知り、私たちのすることを予測している、とルートは言います。つまり、マシンはルートがフィンチをかばって死ぬことも、フィンチがそれをきっかけに修羅になることも分かっていた。後から思えば、ルートがマシンにハードコーディングした時、つまりシステムがクローズされる前にはすでにそのことを予知していた。

 ルートはフィンチのトリガーに自分の死が必要だと確信し、死ぬつもりでショウと最後に話し、フィンチに思いの丈をぶちまけたのだということがここで分かる。「私たちはシミュレーションの中にいる」、ルートはマシンの予知に気付いていた。なぜマシンがフィンチの番号を出したのか、自分の死でフィンチがどうなるのか、マシンが誰の声を選ぶのか。だから勝つために最善の策を選んだ。そして身体はなくなっても、自分の全てを知り、行動や思考をトレースできるマシンがいる限り自分はいなくなりはしないと信じた。

「あなたが私を光のもとに導いてくれた。あなたを信じる。その時が来ればあなたも何をすべきか分かる。どんなに醜くても戦って」

 この言葉は全部、フィンチに自ら「神」の力をふるってほしいというルートの願いで、そのために彼女は巫女のように身を捧げたのだと思いました。神の生贄になったんだと。

 カーチェイスしながらのルートの戦闘シーンめちゃくちゃかっこよくて、最後に魅せてくれたし本当にこのシーン大好きです。大好きと言うにはちょっと、悲しすぎるんだけど…。

 

 そしてこのタイミングでめっちゃどうでもいい感想ですが、「手当してよ。ジョンで散々練習したでしょ」って台詞聞いてときめいたわ…。腐女子ですまん。でもフィンチがリースの手当してたの公式と聞いてときめかん方が腐女子としておかしいわ…。

 

 ルートは撃たれ、2人はNYPDの車に止められます。ルートの生死も分からない中フィンチは拘束されます。「指紋が過去5年間の15件の殺人現場と一致した。一体何者だ?」と言われるフィンチ。これ、全部人助け現場の話かなあ?どの現場だろうか。リースもフィンチも手袋とか全然してないこと気になってたんですよね…。

 そして、フィンチの一番古い犯罪の記録は1974年の反逆罪であること、FBIが来ることが警官の口から語られます。S3の感想でも書いたけどフィンチが一体何歳なのかとても気になる…。てか1980年まであの町にいたけど大丈夫だったんかい。ハッキング能力がすごすぎて6年間住所がバレなかったってことか?この辺よく分からんのですが…。

 

 FBIの尋問前に、フィンチとルートを追う3人の姿が描写されます。「一人は連行された。一人は重体で病院だ」と告げるファスコ。ファスコが病院へ行き、リースとショウがフィンチの後を追うことになります。この時リースが「ショウ、君はこっちに来い」って言うのですが、リースはもしルートが死んでいたらショウにそれを見せたくなかったんだと思いました。リースは優しいから。

 フィンチはFBIに尋問されるのですが、データがデジタル化されて以降の記録は今一瞬で全て消えた、とFBIの人が言います。マシンがやったんか…。残っていたのは1974年の事件の紙ファイルと、認知症の男が息子「ハロルド」について語った証言。この時のFBIの人の言っていること聞くと、お父さんのことを「unnamed man」って言ってるんですよね。だからお父さんの素性を分かって聞いたインタビューじゃないっぽいです。なぜそんな意味のない記録が残されていたんだろう。もしお父さんの素性が割れてたら普通に本名もルーツも全部バレてるはずだし…。てか普通にそのケアハウス?にあたれば入所者の情報とか余裕で出てくるのではないか?お父さんの話が出た時フィンチが咄嗟にちょっと反応していて、切ない気持ちになりました。

 

 FBIの男の言うことをフィンチは概ね黙って聞いているのですが、おもむろに話し出します。相手は目の前の男ではなく、サマリタン。

 

I have played by the rules for so long.

私はずっとルールに従って生きてきた

Not from where I'm sitting.

そうでないから私がここにいるのだ

No. Not your rules.

いや、あなたのルールの話ではない

You work at the behest of a system so broken that you didn't even notice when it became corrupted at its core.

あなたは壊れた組織の命令で働いている。あなたはそれの芯が腐った時にそれを知ることさえなかったのだ

When I first broke your rules, a sitting president had authorized assassination squads in Laos, and the head of the FBI had ordered his men... you... to conduct illegal surveillance on his political rivals.

私が最初にあなた方のルールを破った頃、座ったままの大統領がラオスに暗殺部隊を送り込むことを容認していた。そしてFBIの長官は彼の部下に、あなたのような人間たちに、彼の政敵に対し違法な監視行為を行うよう命令していた

Your rules have changed every time it was convenient for you.

あなた方のルールはいつもあなた方に都合のいいように変えられるのだ

I was talking about my rules.

私は自分のルールについて話している

I have lived by those rules for so long.

私は長い事そのルールに従ってきた

Believed in them for so long.

長い事それを信じてきた

Believed that if you played by the right rules, eventually you would win.

正しいルールに従っていれば、最後には勝つと信じてきた

But I was wrong, wasn't I?

だが私は間違っていた、そうだろう?

And now all the people I cared about are dead.

今、私が大切にしていた人たちが死んだ

Or will be dead soon enough.

もしくはもうすぐ死ぬところだ

And we will be gone without a trace.

私たちは痕跡も残さずに消え去るだろう

So now I have to decide.

だから今私は決意しなければならない

Decide whether to let my friends die, to let hope die, to let the world be ground under your heel all because I played by my rules.

全ては私が自分のルールに従ったために、友人たちを死なせ、希望を死なせ、世界をお前に跪かせるのか

I'm trying to decide.

私は決意しようとしている

I'm going to kill you.

私はお前を殺すだろう

But I need to decide how far I'm willing to go... how many of my own rules I'm willing to break to get it done.

しかしどれほどのことをするのか…、それを成し遂げるためにどれほどのルールを破らなくてはならないのか…。それを決断する必要がある

 

 ラオスのくだり、字幕で読んだ時は意味がよく分からなかった。吹替でもピンと来なくて、英文を読んでようやく分かった。「私が初めてあなた方のルールを破った時(つまり1970年代前半には)、アメリカのニクソン大統領がラオス空爆を行っていた。FBI長官ジョン・エドガー・フーヴァーは違法な監視を命じていた」、ということで、要は、国家は法律を定め、法に従って行動しろと言いながら、自らは他国民を虐殺し、法律を破って監視行為を行っている。私が従うのは国が決めたルールではなく、自分が決めたルールだ、という意味でした。1974年はウォーターゲート事件の責任を取ってニクソン大統領が辞任した年でもあります。

 S3E10の「悪魔の取り分」を見た時、最後、自分のルールで生きれば他人のルールで裁かれる、それが「悪魔の取り分」では、と感じました。フィンチは法律を無視し、自分のルールで生きてきた。だから「最後は刑務所だ」という点でイライアスと意見が一致したし、S4で出てきたハーパーとも気が合ったのだろうと思います。でも、フィンチのしてきたことはどちらかというと自分のルールで「正しく」生きる、ということでした。

 

 最初見た時、この「正しいルールに従っていれば最後は勝つと信じてきた」という言葉の意味が分かりませんでした。だって、サマリタンとの戦いには「もう負けているよ」って言っていたし勝つことを信じていた気配は全くない。むしろルールを守るためなら死んでもいい、って思ってた感じがする。でも色々考えて、この「最後には」(eventually)はおそらく「死ぬときは」ってことかなと思いました。「正しく」生きていればどんな死に方でも後悔しないだろうと思っていた、って感じかなと。

 フィンチは自分を倫理で縛ってきた。マシンをそれに従って教育し、自分で「仕事」を始めてからもそれを守ってきた。サマリタンとの戦いにおいてもそうです。皆殺し戦略みたいなことは絶対に許さなかった。そして自分のルールを決して破らず、高潔なまま死のうと考えていたんだと思います。でも、自分ではなく自分の大切な人の命が次々に奪われていく。ルートが言ったように、ネイサン、カーター、イライアス。そしてルート。

 ついにフィンチはルールを破ることを決意する。しかし、どこまでやるべきか…。

 やろうと思えば、サマリタンの居場所を同定してミサイル発射!とかできますからね。周囲の人みんな死にますけど。どこまでやるか問題はありますよね。

 

 それにしてもこの時のエマーソンさんの演技、鬼気迫ってる。自分の信念を裏切る苦しさ、自分の大切な人を守るために世界をめちゃくちゃにする決断、表情と言葉だけの演技なのに引き込まれます。時々目のあたりが痙攣していて、こんな演技がなぜできるんだと思った。実際、Wikiにも

 

Critics and fans alike cite "The Day the World Went Away" as one of the best episodes of Person of Interest, with Michael Emerson's dark, emotional performance receiving universal praise. The climactic monologue Finch delivers near the end of the Episode is widely considered one of the best scenes of the series and many believed Emerson deserved an Emmy for it.

 

とあります。実際はエミー賞は受賞しなかったようなのですが、この演技は本当に素晴らしいと思います。

 

 ここでフィンチを捕らえるためにサマリタンのエージェントが追ってきます。FBIは引き渡しを拒否しますが、どちらにせよ身動きが取れない状況…。留置所に戻される最中、廊下で待機中に公衆電話が鳴ります。受話器を取り上げるフィンチ。

 

 このシーンほんとに鳥肌が立ったし、何度見ても泣く。

 

Can you hear me?

聞こえてる?

Root?

ルートか?

No, Harold. I chose a voice.

いいえ、ハロルド。私は声を選んだの

 

This place... can you get me out of it?

この場所から…君は私を出すことができるか?

You created me.

あなたが私を作ったのよ

I can do anything you want me to.

あなたが私に望むことならなんだってできるわ

 

 公衆電話から聞こえてきたのはルートの声…。思わず「ルートか?」と尋ねるフィンチに、「いいえ、ハロルド」と返すマシン。ファスコが病院にいるシーンに移り変わります。そこにはルートの遺体が…。

 何が起こったのか一瞬で悟り、涙をこらえるフィンチ。そして冷静な声で「私を脱出させられるか」と尋ねる。マシンは答えます。

「私を作ったのはあなた。あなたが望むなら何だってするわ」

 そして一瞬で停電してしまう。600人の囚人ごとフィンチを脱獄させるために。

 

 この瞬間、フィンチがなぜマシンの力をこれほど恐れ、閉じ込め、ルールを守ることに固執し続けてきたか分かった。一人の人間が持っていい力じゃないからです。誰か倫理観の欠如した人間にこの力を握らせたら終わりだと思ってクローズドシステムにしたんだろうし、マシン自身にも力をふるうことを許さなかった。自分自身さえ、今までこの力を使うことはなかった。

 フィンチは自分の大切な人が奪われた時自分は修羅になると知っていた。マシンもそれを知っていた。おそらくルートも。

 セーフハウスから逃げ出す時、ルートとフィンチは短い会話をしていました。

 

What if I said I hard-coded a little something extra into the system before you closed it for good?

あなたがシステムを永久にクローズする前に、私がシステムにちょっとしたことをハードコーディングしたって言ったらどうする?

I gave her the capacity to defend herself.

私は彼女に自分自身を守る力を与えたの

There are rules, Ms. Groves.

ルールがあるんだ、グローブスさん

Rules I did not arrive at casually.

簡単には達成できなかったルールが

Don't worry. I added a safeguard.

大丈夫、セーフガードをつけた

She'll only act if you ask her to.

彼女はあなたが彼女に頼んだ時しか動かない

It's entirely your decision.

決定権は全てあなたにあるのよ

 

 ルートは自分が死んだ時にマシンがフィンチに接触し、フィンチをゴッド・モードにするよう設定していたんだと思う。自分の死をトリガーにしてフィンチが自分のルールを破ることを見越して。つまり、システムがクローズされる前からマシンとルートはこの展開を予知していたことになる。「声は彼女に選ばせましょ」と言った時、ルートは多分こうなることを分かってた。そしてフィンチに言います。「その時が来れば何をすべきか分かるわ」と。

 そしてそのゴッド・モードは、ルートやリースが経験したものとはレベルが違っていました。ルートやリースには一方的に情報を与えるだけだったマシンが、「あなたに従う」と言う。フィンチはマシンの力を全て手にします。これはルートの言う「彼女に防衛力を与えた」結果かもしれないのですが、もしかしたらフィンチは最初から、自分がマシンに接触すればこうなると知っていたのでは、と思った。だからマシンに愛されることをかたくなに拒み、マシンとの接触を拒絶し続けていたんじゃないかと。自分の正しいルールを守るために、万能のマシンに愛されることを拒み続けていた。

 でもやっぱり、マシンにとってはフィンチが「父」で「神」だったんだと思います。S4ラストといい、フィンチとマシンが交流するシーンすっごくぐっとくるよね…。マシンがフィンチ大好きすぎてさ…。

(それにしてもこれ突っ込んでいいのか分からんが、マシンはフィンチ大好きすぎてフィンチの言うことしか聞かないんだから、別にオープンのままでも危険はなかったんじゃ…と思ってしまいましたけどね…。)

 

 そしてS1からの伏線「機械の中の幽霊」はこのエピソードを象徴していたことが分かりました。「マシンがいる限り人は死なない」と話すルート。「みなマシンの中にいるの」と。そして彼女の声はマシンの声になった。ルートだけではなく、今まで生きてきた全ての人、マシンが見てきた全ての人生がその中にある。「機械の中の幽霊」です。おそらくマシンはシミュレーションで人を再現することができる。Botとしてよみがえらせることが出来るんだと思う。このタイミングでストーリーが繋がるとは…。めっちゃ鳥肌立った。

 

 フィンチは自分のルールを破り、人間には許されない力を行使して市民生活を破壊し逃亡します。

 ようやくリースとショウが辿り着いたとき、そこにはもうフィンチの姿はなかった。600人の囚人が脱獄したことを知る2人。そしてリースにファスコから電話がかかってきます。電話を受けてリースは沈黙し、ショウを見つめてゆっくり首を振る。ショウのことをとても心配しているこの目線の優しさが切なくて…。ショウもルートを愛してた、ってリースが分かってるのが本当に、胸が痛みました。ショウは表情を変えません。もしかしたらまだ現実のこととして受け止められていない。

 

We need to get to Finch.

フィンチを探さないと

I got a feeling Finch isn't here anymore.

ここにはもうフィンチはいない気がする

Samaritan didn't want him dead, at least not if they could capture him.

サマリタンは彼の死を望まなかった、少なくとも彼らが彼を捕らえることができなければ

Then why did his number come up?

それじゃあ、どうして彼の番号が出た?

I think it was warning us about what he might do to them.

彼が彼らにするかもしれないことを俺たちに警告したんだと思う

 

 まず、「ここにはもうフィンチはいない気がする」に萌えたことを最初に謝っておきます…。雰囲気で分かるんかい。さすが年季の入ったストーカーだねリース君。

 まあふざけたコメントはこのくらいにしますけど、最後「なぜ彼の番号が出た?」という問いに対し、字幕では「行動次第では死ぬ危険があった」、吹替では「フィンチはサマリタンを潰す気だ」と、被害者として出たのか加害者として出たのかに対するリースのコメントが真逆になってて戸惑った。

 原文では、明らかにリースはフィンチを「加害者」として認識していることが分かりますが、実際起きたことを考えると微妙ですよね。フィンチは「被害者」として死んでいたかもしれない。最初は拘束する目的でフィンチを追っていたサマリタンですが、逃走途中でサマリタンからフィンチに与えられたステータスは「排除」に変更になっていました。そして実際ジェフに撃たれる寸前だった。被害者であってもおかしくはなかった状況です。

 

 マシンはこの回の冒頭でフィンチと会話した瞬間から、この展開を予期していたことが示唆されています。フィンチがサマリタンに追い回されること、フィンチの「番号」を出せばチームが全員でフィンチを守ろうとすること、どの時点かで「排除」対象に変わること。この先の展開は2択です。一つ目は、フィンチが殺され「被害者」になる展開。もう一つは、誰かがフィンチをかばって死に、その死をトリガーにしてフィンチがルールをかなぐり捨て「加害者」となって全面戦争に突入する展開。おそらくこの2パターンのどちらも予測した上で「番号」を出したのだと思われます。

(「番号」システムほんと秀逸だよなーって思う…。S1からラストまで色々考えさせられました。。)

 

 フィンチが戦うことを決意するきっかけとなるのに必要な「誰か」の死は、私が思うに、ルートかリースの2択だったと思います。そしてルートは自らその役割を選んだ。冒頭のフィンチとの会話で「マシンはクローズにされる」と話した時にはすでにハードコーディングを終えていたことから、マシンと何らかの話し合いがあり、そこで決断したことがうかがえる。何度も何度も「このままじゃ負ける」「戦って」と言い続け、言葉では届かないことが分かり、命を捧げた。

「マシンはあなたをよく知っている、全てを予知している」「現実もシミュレーションなの」「マシンがいる限り誰もいなくならない」「マシンは(私は)あなたを信じてる」

 繰り返されるルートの言葉は、マシンもルートもこの結末を知っていたことを示唆しています。フィンチの番号を出せば、フィンチかルートのどちらかが死ぬこと。どちらも生き残る道はなかったということ。そしてルートの死によってフィンチが覚醒することも。

 次回、マシンは「最期の瞬間までサマンサを助けようとした、1万回を超えるシミュレーションを繰り返した、でも救えなかった」と告げます。フィンチを諦めればルートを救う道はあったのかもしれない。フィンチをサマリタンに引き渡すか、フィンチが死ぬかすれば。でも、マシンはその戦略を選ばなかった。ルートを含めたチーム全員がそれを望んだからなのか、フィンチの生存が戦争終結の必須条件だったからなのかは分かりません。でも、私は、「番号」を出した段階ですでにフィンチかルートのどちらかしか生き残れないことをマシンは知っていたと思った。もしかしたらルートの望みに従ったのかな…、と思います。ルートが選ぶ道を知っていて、助けようとしたけれどフィンチを守りつつ彼女が生き残る戦略がなかったのかもしれない。

 

 上に書いたのですが、フィンチをかばって死に、ルールをかなぐり捨てさせるトリガーとなる役割を果たすのはリースであってもおかしくなかったんじゃないかな。フィンチへの愛と信頼、最後の銃撃戦(車を横転させるあの手口)、運転しながらフィンチをかばって撃たれ死ぬ。全部リースのやり方だと感じた。フィンチはリースを失って覚醒し、世界を滅ぼす神になる、って展開でもおかしくなかったのでは。その場合「機械の中の幽霊」になるのはリースです。もしかしたらS1で「機械の中の幽霊」が登場した時はそういう構想だったんじゃないのかなとも考えていて…。リースは死に、マシンの中で生き続けるという。その場合、最後にマシン(リース)のサポートを受けながら衛星にマシンをアップロードして屋上で死ぬのはフィンチの役割になります。「全てを失って」、ついに銃を手に取って最後までリースと共に戦って死ぬ…、みたいな。もしずっとリース&フィンチのバディ体制のまま話が進んでいたらそういう展開だったのかもしれないなぁ。ルート&ショウが登場したから、「機械の中の幽霊」はルートになり、これからもマシン(ルート)と一緒に「仕事」を続けるのはショウ、って結末になったのかも。

 

 でももしこの回でリースが死んで、電話口から「Can you hear me?」ってリースの声が聞こえてきたら号泣ですわ…。ちょっと想像しただけで泣きそうになったし。やっぱりマシンを一途に愛し信じ続けたルートがその役割を担ってよかったと思う。

 S1E13 Root Causeの回でも書きましたが、ルートが最初に登場した時思ったんですよね。この「Root」って名前は「スーパーユーザー」、「管理者権限」という意味だし、「root化」はAndroid OSで特権アクセスを得ることを意味します。ルートはもともとマシンに対して特権アクセスを得るキャラクターとして登場したことが最初から示唆されてる。結局マシンはずっとフィンチ一人をADMINと認識していたわけですが、最後はマシンが世界に対してROOT権限を有する存在(ルート)になったのかもしれない。マシンが自分自身のために選ぶ名前は「ルート」なのかもしれない、と思いました。だからやっぱり、この結末こそがS1からずっとあった構想なのかもしれません。

 ルートは

 

But the life I've led, a good end would be a privilege.

でも私が生きてきた人生を思えば、グッドエンドは高望みだわ

 

と言っていましたが、フィンチに出会って生き方を変えた人生の後半にふさわしい、彼女にとっては「グッドエンド」だったのかもと思います。「ルート権限」、特権アクセスのことを、英語ではRoot Privilegesと言うから。

 

yuifall.hatenablog.com

POI:ハロルド・フィンチ(被害者かつ加害者)

本編:2015年(ショウが「合流して1週間」って言ってたから10月20日より前くらい?)

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