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05x03 - Truth Be Told 感想

 POI感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

 この回からオープニングが変わります。

 

Finch: You are being watched. The government has a secret system... secret system...

(フィンチ)あなたは見られている。政府は極秘システムを持ち…

Greer: A system you asked for to keep you safe.

(グリア)あなた方の安全のためにあるシステムだ

Finch: A machine that spies on you every hour of every day.

(フィンチ)マシンはあなたを毎日、毎時間監視している

Greer: You granted it the power to see everything... to index, order, and control the lives of ordinary people.

(グリア)あなたがそれに全てを見る力を与えた…、全てを分類し、並べ替え、一般の人々の人生を支配する力を

Finch: The government considers these people irrelevant. We don't.

(フィンチ)政府はそれらの人々を「無用」と見なすが、我々は違う

Greer: But to it, you are all irrelevant, victim or perpetrator, if you stand in its way.

(グリア)しかしそれにとって、あなたたちは全て「無用」だ。被害者であれ加害者であれ、もしあなたがその道に立ちふさがれば

Finch: We'll find you.

(フィンチ)我々はあなたを探し出す

 

 最後のフィンチのWe’ll find you. が悪役みたいに聞こえちゃいますね。

 

 タイトルは『語られた真実』ですが、実際は真実を語らない人の話です。というか、「真実を語ることができない」生き方をするしかない、というリースの「真実」が語られる回ですかね。

 

 冒頭、「海賊レストラン」のトイレで番号対象者を守るべく奮闘するリース。この回、ノリが以前のPOIみたいでした。リースはアイリスとその両親との顔合わせのために待ち合わせをしているんですが、そんな日でも「番号」優先なのか…。てか両親との初顔合わせに海賊レストランはないわー…。案の定、微妙な空気になってます。

 

 ランチの後地下鉄にやってくるリース。

 

What's shakin', Finch?

やあ、フィンチ

Mr. Reese.

リース君

How was your lunch with Dr. Campbell and her parents?

キャンベル先生と彼女のご両親とのランチはどうだった?

It was a bit rocky at first. By the end, I think I was growing on them.

最初はちょっと堅苦しかったが、最後は気に入ってもらえたんじゃないかと思うよ

An experience I can personally relate to.

それは個人的に共感できる経験だ

So things are going well between the two of you?

つまり、君たち2人は順調だと考えていいのかな?

Well enough. Iris still has a lot of questions.

まあ十分だ。アイリスはまだ疑問だらけだろうが

Be cautious in your answers.

答えには気を付けてくれ

I intend to be.

そうしてる

Otherwise, I think it's good that you're attempting to have a more normal life.

それはともかく、君がより普通の人生を歩もうとしていることはいい事だと思うよ

That is, when you're not risking your life saving people.

つまり、君が人助けをするために命を危険にさらしていない時、という意味だが

Or trying to stay a step ahead of an artificial superintelligence bent on world domination.

もしくは世界征服を試みる人工超知能を止めようとしていない時だろ?

Or that.

まあ、そうだ

Looks like most of the bugs have been worked out of Machine 2.0, given the steady stream of numbers that we've been getting.

マシン2.0のバグの多くが解消されたようだな、俺たちは安定して番号を受け取ることができる

Speaking of which.

そうだった

 

 この会話の前半、フィンチめっちゃ嬉しそうなんですよね…。リースに普通の生活を送らせてあげたいってずっと思ってたのかなあ。「両親との顔合わせ、気まずいよねー!!分かる分かる。経験あるよー!!でも彼女とはいい感じなんだ、よかったね!」って、完全にノリが普通の友達です。なんか、全然違う状況で出会ってたら(S2E12の『尋問』回のジョン・ウォーレン氏とその上司のハワード・フレンチ氏みたいに)、よい「年下の友人」だったのかなあってちょっと切なくなってしまいました。

 この2人って仕事で繋がってる関係で全く共通点もないし話も合わなそうだし、もしかすると「番号」がなければ全然話すこともないのかなって思ったりもしていたのですが、このやり取りを見ていると本当に「友達」っていうか、仲良くなったんだなってしみじみしてしまった。最初はビジネスライクな関係だったのにね。前回も書いたけど恋バナ楽しそうなフィンチかわいいです。ネイサンの恋バナとかもきっと楽しく聞いてたんだろうなー(自分のことは全く話さないのに…)。

 でも冷静になるとこの状況はどう考えてもおかしいでしょ…。「両親」出現で我に返ってくれよ…。そもそもフィンチはグレースに対してずっと嘘ついてて「婚約者」のまま死を偽装せざるを得なかったのに、なぜリースが同じ轍を踏もうとしているのをにこやかに見守ってんだよ…。

 

 フィンチのしてることは自己欺瞞だと思った。だって、リースにまともな普通の生活を送らせたかったら、そもそもサマリタン編に突入する前からいくらでもできたはずです。偽装ID作りのプロじゃん。S1E1で「残らないなら必要なものは渡すから消えてくれ」と言った「必要なもの」の中には、「新しい身分」も含まれていたはず。でもフィンチはリースを手放すことができなかった。誰よりも「番号」の仕事に必要な人材だったし、リース自身が「仕事があって幸せだ」と語るようになったから。それだけでなく、彼の存在そのものがフィンチの救いになっていた。S3では一度仕事を辞めたリースをイタリアまで追いかけてすらいます。でもS4でリースが堂々と「警察」の身分を手に入れた時、フィンチは一度リースを手放そうとしてた。「普通の人間になってただ生き延びろ」と言って。今度はリースがフィンチを「番号」の道に連れ戻します。

 このあたりからフィンチに迷いが生じたんだと思う。自分自身はマシンとサマリタンとの因縁もあるし、すでにグレースを巻き込んで手放しているからもう後戻りはできない。でもリースは?そう考えている間にリースに一般人の恋人ができて、彼には普通の人生の可能性がある、って考えたんじゃないかな。でもその一方で、今仕事を辞めさせることはできない。「番号」の仕事にもサマリタンとの戦いにも彼が必要だし、何より彼自身がそれを望んでいない。

 

 ここが自己欺瞞なんだと思うんですが、本来ならフィンチはどちらかを選ばせなきゃいけなかったんだよね。危険な「副業」はやめて彼女と歩むのか、彼女と別れて仕事を取るのか。どちらも取ることはできない。もしグレースとフィンチと同じ状況にアイリスとリースが置かれたらどうなるか、考えればすぐに分かることです。普通の生活を送りながら「番号」対象者の命を救ってサマリタンと戦うことはあり得ない。でもフィンチはそれを迫りはしなかった。リースを手放せなかったし、彼女と別れろとも言えなかった。だからこの状況になっている。「人助けのために命を危険にさらしていない時」と「世界征服しようとしている人工超知能を止めようとしていない時」に「普通の生活を送る」ってどういうこと??って自分でも思わないのか??

 多分フィンチは「サマリタンとの戦いに勝った後、リースが普通の人生を歩むときにそばにいてくれる人」みたいな存在を求めていたのかもしれないけど、そんなの楽観的に過ぎるし、サマリタンとの戦いに勝った後も「番号」の仕事は残るじゃん?それにリースはS4E20でカーターに「俺たちみたいな人間に“後”はない。引退後の夢などない」と語っています。そもそもリースがなんで急に一般人と恋愛する流れになったのかが意味分からんのですが、フィンチもフィンチでリースがアイリスと恋愛しようとしてた時「目を覚ませ馬鹿野郎」って言うならともかく「普通の生活を送る努力を」なんたらかんたらってちょっとどうかしてるよ。ショウがいたらめちゃくちゃディスってくれただろうに…。いや、すでにゾーイにディスられてたか…。ロマンチックおじさん2人じゃダメですね。。

 

 いやーでも前にも書いたことを繰り返すけど、S4でフィンチがリースを手放そうとする描写が中途半端になったのはショウが途中でいなくなったからではないかとも思いました。ショウがいなければ、リースなしでは仕事が成り立たないもんな。ショウがいればリースなしでも実行役がいることになるから、フィンチがリースと距離を置いてリースが普通の生活にガチで憧れて…、っていうのもっと説得力ある描き方できたかもしれなかったよね。

 まあ、何にせよ、このやり取りを見ていてフィンチがリースの幸せを願う気持ちとリースを手放せない気持ちを両方矛盾なく抱えているのが切ないと思ったし、人を愛することは不合理で愚かだなと感じて愛おしくなりました。フィンチはリースを愛してるから、その矛盾に気づかないんだよね。サイエンティストでジーニアスであっても感情って合理的じゃないから。

 

 今回の対象者はアレックス・ダンカン。「マシンがオープンなんだから情報を聞けよ」と言うリースですが、マシンは不可解な暗号を送り付けてくるなどまだ完全に信用できる状態になく、いつも通り訳が分からない中潜入捜査をすることに。リースはセキュリティ高そうなIT企業に潜入し、ルートはマシンが作った仮の身分で宅配業者に成り済まします。

 

 ルートの方はサマリタン関係の話で、サマリタンがPCとかにマルウェアを仕込んでいることを掴み、配送中のPCからコードを抜き出します。この時のルートとフィンチかっこいい♡どうしてあのスピードでコードが読み取れるのだ…。コピーして持ち帰りフィンチはそれを分析するにとどめるのですが、ルートはネットワークと遮断したPCにマルウェアをインストールして一体何が行われているのかを調べようとします。

 ここからしばらく、慎重な態度を崩さないフィンチと「やるしかない」とアグレッシブに攻めるルートのスタンスの違いが明らかな状態で話が進行する感じに…。フィンチが煮え切らない理由めちゃくちゃ分かるけど、見てるともどかしいよね…。やったれよって思っちゃうよね。

 

 ちなみにマシンが送ってきた詩はEmily Dickinsonの "Cocoon Above! Cocoon Below!" です。調べたのですが和訳は探せず…。全集とか読めば載ってるのかなあ。

 

Cocoon above! Cocoon below!

Stealthy Cocoon, why hide you so

What all the world suspect?

An hour, and gay on every tree

Your secret, perched in ecstasy

Defies imprisonment!

 

An hour in Chrysalis to pass,

Then gay above receding grass

A Butterfly to go!

A moment to interrogate,

Then wiser than a "Surrogate,"

The Universe to know!

 

上には繭!下にも繭!

繭は潜む、なぜそんなに隠れるの?

世界の全ては何を疑うの?

1時間、そして全ての木にきらびやかに

あなたの秘密は恍惚へ流れ込む

束縛を拒否して!

 

蛹として過ごす1時間

そして消えていく草の上きらびやかに

蝶が行く!

問いただす瞬間

“代用品”よりも賢く

知るべき全世界!

 

 翻訳者でも詩の研究者でもないので完全な直訳ですが、正直意味はよく分からん…。単純に単語の意味を取り違えた誤訳なのか当時の英語の文法や詩人の背景を理解していないための誤訳なのかそもそも分かりにくい詩なのかすら分かりませんが、とりあえず「変容」というテーマであるとルートは言ってますね…。私たちもマシンも変わるしかない、と。

 この「変わる」ってこと、「人は変われるか」がPOIのテーマの一つかなってたびたび感じるのですが、ルートとファスコは分かりやすく変わったと思うけど、他の3人はどうかなあ。リースとショウは「変わった」とこと「変わらない」とこがあるって思いましたが、フィンチはどうなんだろうな。フィンチが一番分かりません。

 

 さて本筋に戻ると、リースはダンカンを追ううちに彼が何らかの国家機密情報を盗んだことに気づきます。そしておそらくそれが原因でダンカンはCIAに拉致されてしまう。そこにいたのはCIA時代の上司、ビールだった。

「CIAは必ず彼から必要な情報を聞き出し、そして殺す」と言うリースに、「ジョン・リースの生存がCIAにバレるのは危険すぎる」と止めようとするフィンチ。スノウにバレた時点でCIAには生存バレてるんじゃ?とかちょっと思ったんですが、スノウは自分がリースを殺し損ねたことを報告したくなくて上には黙ってたってことだったっけか??

 まあとにかくこの時点でCIAにバレればそのままサマリタンにもバレることになり、極めて危険なのでフィンチはリースをこの件から遠ざけようとします。でもリースはCIAの手口が分かっているのでダンカンの命を守るため彼を奪還に向かい、救出自体には成功するのですがビールに正体がバレてしまいます。

 リースはダンカンに事情を聞き、なぜCIAに追われているのかを掴もうとします。ダンカンは兄の死の秘密を探っていた。そしてリースは気付く。ダンカンの兄を殺したのはかつての自分であったことに…。

 リースはフィンチに電話します。「彼は兄について探っていた。死んだ兄だ」「死んだ?なぜ?」黙り込むリース。ダンカンの兄を撃ち殺した際のフラッシュバックが挟まります。「どうしたリース君」尋ねるフィンチに答えます。「俺が殺した」と。

 

 この後のシーンはちょっと面白い。リースとダンカンはオフィスに戻って更に調べを進めるのですが、その時間を確保して敵を欺くためにフィンチにCIAをハッキングさせます。フィンチはタイムズスクエアのど真ん中でわざと稚拙な手段でハッキングを行い、CIAに痕跡を辿らせます。フィンチがかっこよすぎて痺れた。CIAも思うがままに操れちゃうぞ!

 このシーン、Twitterにアップされてたそうで…。なんかほんとにフィンチがタイムズスクエアにいそうでどきどきしますね。Twitterにアップされたのも2015年8月(撮影時)みたいで、この回放送は2016年5月なんですが、ストーリー上では2015年8月なので、まるでほんとにフィンチが拡散されちゃったみたいで面白い。

 

 調べを進めると、ダンカンの兄はかつてCIAの違法の極秘作戦に関わっていたことが分かります。彼はその作戦中敵に武器を横流ししていました。リースとカーラは2010年に武器の横流しに関して彼を尋問し最終的には射殺したのですが、彼がCIAの極秘作戦に関与していることは知らなかった。ダンカンはCIAの極秘作戦を明らかにしたいわけではなく兄の死の真相を知りたかっただけだったのですが、結果的にCIAに追われる結果になります。

 リースは2つの決断を迫られることになる。ダンカンに兄の死の真相を伝えるか?それに、CIAからどうやって彼を助け出すのか?

 結局オフィスで逃げ遅れてCIAに捕まり、車に載せられます。そこで「真実」をダンカンに伝えるリース。兄が武器の横流しに関わっていたことは伏せ、「君のお兄さんは無実だった。英雄だった。空爆に巻き込まれて死んだんだ」と話します。極秘作戦についてこれ以上探られたくないビールも話を合わせます。「その通りだ」と。リースは車を横転させてダンカンを連れて脱出。ダンカンは兄の死についてこれ以上追うのをやめ、CIAもダンカンを追うことを諦めます。

 

 最後のリースとビールの会話→リースとカーラのフラッシュバック→リースとアイリスの会話は、全てリースの行く末を暗示するようだった。

 

 リースとビールの会話。

 

If all this was about the kid needing the truth about his brother, why not just give it to him?

もしこの全てがあの青年が彼の兄についての真実を知る必要があることであれば、なぜ君は単に真実を伝えなかった?

Duncan wanted to know how Paul died, but what he needed was to believe his brother was a hero so he could let it go.

ダンカンはどうやってポールが死んだのか知りたがっていたが、彼に必要だったのは彼の兄が英雄だと信じることだ。そして彼はそれ以上の追及をやめることができる

You were always good at doing what needed to be done.

君はいつもやるべきことをよく知り、それをうまくやる人間だった

Glad to see some things haven't changed.

変わらないものがあると知って嬉しいよ

But a lot has.

多くは変わった

It's a brave new world out there. Needs people like us more than ever.

そう、素晴らしき新世界さ。我々のような人間が以前にも増して必要とされるんだ

That's not a good thing.

いいことじゃない

It's neither good nor bad. Just the way it is.

いいも悪いもない。そういうものなんだ

We didn't make the world like this.

世界をこんな風に作ったのは我々じゃない

Didn't we?

そうか?

I'll be leaving your name out of my report.

レポートには君の名は出さない

As far as the Agency is concerned, you're still dead.

当局が知る限り、君は死人のままだ

Why would you do that?

なぜそうする?

Might be because you could've killed me the other night but you didn't.

あの夜君は私を殺せたが、そうしなかった

Or maybe I like knowing you're out there, a ghost, still doing what needs to be done.

それに、君がそこにいて、亡霊として、やるべきことをやっていると思うのが好きだからな

 

 任務のために人殺しを続けていたこと、「亡霊」になったこと、「やるべきことをやる」こと。ビールはリースにそれを思い出させる。過去からは逃れられない。スノウ、カーラ、それにビールと、リースは「死んだ」後もライリー刑事になった後もずっと過去に纏わられ続けている。言うなればフィンチだって、リースのCIA時代からずっと縁がある相手です。自分はまだ「亡霊」なんだ、「やるべきことをすべき」だ、とリースが心の底から思い知ったのが分かる。

 カーラは言います。

 

You know why Beale really picked you over the other recruits?

なぜビールが他の候補者じゃなくてあなたを選んだか、本当の理由が分かる?

You saying it wasn't my test scores?

つまり成績で選ばれたんじゃないと言いたいのか?
It was where you came from.

あなたの出自よ

You had no family, at least no real family.

あなたには家族がいない。少なくとも本当の家族は

And after losing your adoptive mother, you were on your own.

育ての母を亡くした後、一人ぼっちだった

Beale knew that you'd give everything to the Agency, because you didn't have anyone or anything to go back to.

ビールはあなたが全てを当局に捧げるだろうと知ってたの。だってあなたは待つ人も戻るべき場所もないもの

Except the girlfriend, and you didn't hesitate to walk away from her.

恋人以外はね。でもあなたは彼女さえも躊躇いなく捨てた

Only because I had to.

そうするしかなかったからだ

That's right, because we don't get normal lives, and you can't miss what you never had.

そうよ。私たちは普通の人生を生きられない。それにあなたは自分が知りもしないものを恋しく思うことはできない

That's why Beale picked us and why we're so good at our jobs.

だからビールは私たちを選んだし、私たちはこの仕事に向いてるの

 

 あなたには何もない。待つ人も帰る場所もない。恋人も捨てた。普通の生活を知らないし、欲しくもないから。

 S4E20を見た時に私が感じた通りだった。ジェシカを捨てたのは、「戦地で死ぬと思った」からでもないし、「誰かのために死にたくない」からでもない。初めから「普通の人生を知らず、欲しくもない」から、そうするしかなかった。「あなたはそう生きるしかなかった。だからここへ来たのね」。カーターの台詞が身に沁みます。

 ここでこのシーンを思い出すのは、リースが「やるべきことをする」ために「普通の生活」と決別することを意味します。退路を断ち、恋人を捨てて。そしてアイリスと別れる。

 

But it's not the work that's the problem.

仕事が問題なんじゃないんだ

It's my past.

問題なのは俺の過去だ

Your past isn't anything that you can control.

あなたの過去は変えられない

Your future is.

でも未来は変えられるわ

I wish it were that simple.

そんなに簡単だったらよかったんだが

But the things I've done...

だが俺のしてきたことを考えると…

You don't have to be that person anymore.

あなたはもうそんな人間でいる必要はないのよ

Actually, I do... and that person doesn't get to have a normal life.

実際、俺はそういう人間なんだ。それに、普通の人生を生きることはできない

Says who, hmm?

誰がそう言ったの?

The job.

仕事が

And when will the job be done, John?

そしてその仕事はいつ終わるの?ジョン

Well, I hope for your sake, one day you get to be someone else, maybe have that normal life.

あなたのために、いつかあなたが誰かと出会って普通の生活を送れることを祈ってる

Maybe one day.

もしかしたらいつかな

Just not today.

ただ、今じゃない

And not with me.

そして私とでもない

Good-bye, John.

さよなら、ジョン

 

「私の過去を思えば、グッドエンドは高望みだわ」ってルートの台詞を思い出します。リースだってそう。

 おそらくこのシーンはリースの死亡フラグだったんだろうな、って後から見ると感じます。“帰ってくる場所”として想定されていた女性と別れ、退路を断って“番号”の仕事に戻るシーン。まあ、そうなるよね…。この別れのシーンの中途半端さへの不満は今まで散々書いたししつこいからもう書かないけどさ…。

 

 あと、これ見てて、じゃあフィンチはどうなんだ、って思った。リースには普通の生き方は選べない。誰かに真実を全て打ち明けて普通の人生を歩む道はない、ということがはっきりしました。じゃあフィンチは?

 彼は10代の頃にすでに本名を失い、家族を全て失っている。自分自身をすでに喪失しています。それ以降の人生についても、ネイサン以外の全員に嘘をついている。大学時代の友人ですらフィンチが卒後何をしていたか知らないし、ネイサンの息子もフィンチを「パソコンの苦手なレンおじさん」と認識している。グレースでさえそうです。愛する人にさえ真実を語っていない。フィンチは「IT技術者のハロルド・マーティン」のまま死にました。お父さんが亡くなった時点で10代までのハロルドは死んだし、ネイサンが死んだ時点で大学以降のハロルドは全て死んだんだと思う。そして今いるハロルド・フィンチは、普通の生き方ができるのか?

 

 最後グレースに会いに行ったのはなぜなんだろう、と思います。S5ではラストを暗示するように何度もグレースが登場し、フィンチに帰る場所があることが示唆されます。でも、リースに「普通の人生」や「帰る場所」がないように、フィンチにだってないのでは、って思ってしまう。「真実を語ることができない」生き方をするしかないのは、リースだけでなくフィンチの「真実」でもあるのでは?

 

 去っていくアイリスの背を見送るリースに電話が入ります。

「フィンチ、どうした」「リース君、新しい番号が出た」「すぐに向かう」

 おなじみのやり取りが繰り返され、リースはアイリスに背を向けてフィンチの元へ向かいます。運命がはっきりと死の方向へ隔てられた瞬間を暗示してる。フィンチは2人の会話を聞いていたのではないか?「番号」のためにリースを働かせ続けるならこの道しかなかった。分かり切っていたことです。そしてこれはフィンチの業でもあるのでは?

 

 フィンチは「仕事」でリースに人を殺させてる。自分が銃火器を持たなくても、リースが手を汚すたびにフィンチの手だって汚れていく。そのことは自分でも分かっているはず。グレースと出会った時はまだただの「知能犯罪者」で「逃亡者」だったけど、今のフィンチはもはやそのレベルじゃないよ。S5E2でマシンに「脅威」とみなされた通り、リースと一緒に「仕事」してる間にリースが犯した罪は全てフィンチの罪でもある。

 かつての仕事のためにジェシカを捨てたリースは、今の仕事のために再びアイリスと別れます。あの時空港で「待っていてくれ」と言えなかったし、今も、「仕事はいつか終わるかもしれないが今じゃない」と。この回のラストでリースはアイリスではなく 「仕事」を選びました。選んだというか、選択肢はなかったということがはっきりしたに過ぎないと思うんですが。

 フィンチだって、「仕事」が終わる日なんて来るの?ハロルド・フィンチに「待っている人」「帰る場所」なんてあるの?ネイサンが死んだ後に生まれたハロルド・フィンチはジョン・リースと同じくらい「亡霊」だし罪人だし、「仕事」以外に帰る場所なんてない、と思う。それはS1E1で最初から示されてたよ。

 

 逆に言うと2人とも「仕事」が帰る場所で、お互いが「待っている人」なんじゃないの?だからこそ2人で仕事を続けていく終わり方にしてほしかったなーって思ってるんだけどね。別に腐的な意味じゃなくさ。ていうか、恋愛以外にもオチのつけ方あったよね、って言いたいんだよ。二人の関係の不均衡さがやりきれないけど萌える、とは何度も書いたのですが、それでもリースは全部捨てて死んで、フィンチはグレースが待ってるエンドはマジでないだろう…って思うよ…。なんでそうした…。

 あと、2人に仕事以外に帰る場所がないしお互い以外に待っている人もいないし2人とも「亡霊」だし普通の生活は望めないしいつかは2人とも死ぬということはS1~S3で十分描写されてはっきりしていたので、それを再度言うためにわざわざアイリスを出してリース普通の人間化計画とかやらんでよかったですほんと。S5でファイナルだから恋愛描写切ったのかもしれないけど、そもそもS4の数エピソードだけで雑にくっつける必要そのものがなかったから。

 

 結局リースが「変わった」のかそうでないのか、よく分かりません。この流れからすると、ジェシカを捨てて「写真」を持たず死地に向かった頃と変わっていないようにも思える。でも、同じ「仕事仲間」でも、リースがフィンチやファスコを思う気持ちはかつてカーラやスノウに抱いていた気持ちとは違うんじゃないかとも思う。大切なものがないから仕事に全てを捧げていた彼が、大切なもののために全てを捧げ、自分の大切なもののために生きて死んだ、という点で「変わった」のかもしれない、と思いました。というかそうでも思わないとやりきれないでしょ…。

 S4E20でカーターは、「あなたは自ら孤独になってここに来た。一人で死ぬのね。今からでも変わって、心を開いて愛を受け入れて」と言います。リースは一人では死ななかった。それこそが彼の救済だったのだと、最後に大切な人を思い、思われて死んだということなんだと、この物語のラストをそう受け止めてます。「世界と結び付けてくれるたった一人の人」を失って始まった彼のストーリーが、「世界と結び付けてくれるたった一人の人」を守り切って終わったのだと。

 

POI:アレックス・ダンカン(被害者)

本編:2015年8月(リースの偽社員証に AUG 2015 と記載あり/もしかすると15日前後?)

フラッシュバック:

2010年(書類の日付が9月1日になってたのでそれ以降)、リース(ビール、カーラとCIA)

2010年(Wikiによると10月15日以降)、リース(カーラとアフガニスタンでポール・ダンカンを尋問し射殺)