北村薫の『詩歌の待ち伏せ』で『口語訳詩で味わう百人一首』(佐佐木幸綱)と『百人一首がよくわかる』(橋本治)が面白いなと思ったのでそれぞれ買って読んでみました。
『口語訳詩で味わう百人一首』は、百人一首の歌の意味を分かりやすく説明してくれているとともに、特に和歌の形式にはとらわれず、詩の形式で紹介してくれています。
例えば
23【大江千里】
月みれば ちぢにものこそ 悲しけれ
我が身一つの 秋にはあらねど
月を見るとさまざまなことが思われて悲しい。
私一人だけに秋がやってきたわけではないのだが。 (出典『古今集』秋上)
の現代語訳として
秋の月を一人眺める
過去現在未来思われ
なぜか悲しい秋の月
天にかがやく秋の月
私ひとりの月のよう
のような形で、先に和歌の意味を平易な日本語で説明した後、ヴィジュアルの美しさや語数にも気を使った詩の形式で訳していて、和歌の訳をするときに五七五七七でなくても美しい詩になるんだなーと感激しました。
一方、『百人一首がよくわかる』の方は、めちゃくちゃ身も蓋もない五七五七七に落とし込んでおり、すごい笑えます。そして次の一ページを割いて、和歌の詳しい解説をしてくれていて読みごたえがあります。
この「月みれば」の歌については
月見れば なんだかいろいろ 考えちゃう
みんなのところに 秋は来るけど
になっていて、あまり詩情とかはないのですが(笑)、すごく分かりやすくて面白いです。
44【中納言朝忠】
逢ふことの たえてしなくは なかなかに
人をも身をも 恨みざらまし
なんかは、
セックスが この世になければ 絶対に
こんなにイライラ しないだろうさ!
になっていてこの身も蓋もなさマジで笑った。これが『口語訳詩で味わう百人一首』版だと、
恋はUターンできない
男と女
愛し合い
嫉妬し合い
また愛し合い
恋はUターン禁止のハイ・ウェー
になります。
ところで幻戯書房の『トリビュート×百人一首』も好きで読んでいたのですが、こちらは必ずしも「口語訳」というわけではなくて、歌人たちが百人一首をもとにそれぞれ自分ワールドを展開しているので、意味がイコールにはなっていません。百人一首を知ったうえで(ある意味二次創作として?)楽しむ、という感じです。
「月みれば」の歌は田村元が
秋かぜの駅のホームのうどん屋の
わが身にひとつ黄身を添へたり
と「月見うどん」を題材にしたサラリーマン哀歌にアレンジしており、「逢ふことの」の歌は大松達治が
ああ君というにくたいの海嶺を
記憶のなかのわれは越えゆく
と、「逢不逢恋」(逢うて逢はざる恋)を題材に詠んでいます。
面白いので、今後何回か紹介したいなと思ってます。全部面白いのですが、さすがに100首全部ブログに載せてしまうのはまずかろう…。どの程度なら「引用」として許容されるものなのか具体的な線引きは分からないのですが、20首程度の予定でいます。