「一首鑑賞」の注意書きです。
63.うっすらと脂肪をつけてゆくように貯金を増やす一年だった
(田中濯)
「うっすらと脂肪をつけてゆくように」の嬉しそうじゃなさから、これはポジティブな「貯金」ではないんだということが窺われます。おそらく、使うヒマがなかったから何となくたまった微妙なお金なんだろう。それも「うっすら」であって大金ではないわけで、多分「結婚」とか「マイホームの頭金」とか「子供の教育資金」とか一般的に考えられる貯金の目標とするべき人生のイベントがなく、かといって趣味や余暇にどーんと使うわけでもなく、「まあ別にいっか」となんとなく外食とかしてある程度消費はしていて、振り返ってみるとなんかうっすら金貯まってるなー(そして食事くらいしか楽しみがなかったせいで脂肪もうっすらついてるなー)っていう状況が想像されます。
この1首だけでここまで独身中年男性の生活を想像させるのすごいですね。まあ事実かどうかはともかく、そんな感じの歌ですよね。
鑑賞文によれば当時作者は34歳、そして研究職らしく、より肉付けされた読みがあります。難しい言葉を使っていないのにすごく奥行が深い歌だなぁと感じ入りました。
一年が少しも早くならないの外の見えないあたたかい部屋 (yuifall)