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東郷雄二 『橄欖追放 [sai] 歌合始末記』 感想 「姉」

橄欖追放 [sai] 歌合始末記 感想

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橄欖追放 [sai] 歌合始末記

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 第四戦は「姉」でした。

 

姉歯、とふ罪人の名を愛でながら夕餉の魚を咀嚼してをり (高島裕)

かろうじてきれいな川をふたりして見る 姉にしてお茶をくむひと (土岐友浩)

 

 

姉歯、とふ罪人の名を愛でながら夕餉の魚を咀嚼してをり (高島裕)

 

 高島の歌には今となってはいささか解説が必要である。歌合の少し前、姉歯一級建築士による建築強度偽装問題が発覚して大騒ぎになったので、これは時事的な歌なのである。

 

と解説にあります。

 この苗字、「姉」と「歯」の組み合わせにけっこうなインパクトがあって、この歌でも「咀嚼」という言葉で回収されています。「夕餉の魚」にはちょっと生臭いような感じを受けるし、「罪人の名を愛でる」というのは、男として「姉」に象徴される何か、年上の女性(しかも血縁)のイメージを咀嚼するっていう、仄暗い性欲のようなものも感じさせられます。「姉」でこの歌が来るのはすごく意外だったのですが、読めば読むほど味わい深い歌に感じました。

 

 

かろうじてきれいな川をふたりして見る 姉にしてお茶をくむひと (土岐友浩)

 

 土岐の歌は、意味を取るのがちょっと難しいです。「ふたりして」見ているわけだから、おそらく「自分」と「姉」が二人で川を見ているのだろう。しかも、「姉」はお茶をくんでいるわけです。

 ぱっとイメージしたのは、温泉旅館でした。部屋について、「川が見えるねー」なんて言いながら荷物をほどいていて、「あ、お茶淹れるね」ってお姉さんが淹れてくれたお茶を飲みながらふたりして川を見下ろして、「まあ、きれいっちゃきれいだね」みたいな感じ。

 しかし、温泉旅館に家族で行ったとして、いい年こいて異性の姉弟が同じ部屋に泊まるだろうか?最もナチュラルに考えると、部屋は男性と女性に分かれて別で、男性の部屋にみんなで集まっているときに「お茶淹れるね」ってなってるシーン。もしくは、実は2人とも子供である、という考え方もあります。姉が大人ぶってお茶をくんでくれるわけです。あんまりそういうニュアンスはないですが…。でもこの歌では他の人間(つまり、両親)を感じさせる要素がなく、ふたりきりでいるように思われます。姉と弟がふたりきりで温泉だったら「お茶をくむひと」どころじゃないわ…。だから、「姉」というのは実は「姉」ではなくて、単に年上の女性であるとも考えられますが、題詠で「姉」という題を与えられているのにそこを無視するっていうのもおかしいし…(というメタな読み)。

 解説には

 

土岐の姉の歌は解釈をめぐっていろいろな議論があった。なかなか読みにくい歌である。「ふたりして見る」とあるので、女性と「私」が川を見ているのだろう。「お茶をくむひと」は死語となった感のある「お茶汲みOL」か。「姉にして」も本当の姉か、姉のような人か解釈が分かれる。私など最初は、川を見下ろす旅館の二階で女性がお茶を淹れている場面を想像してしまったが、みんなの読みはそうではないらしい。テーマは年上の女性に対する淡い恋情と、まもなく関係が壊れるという予感あたりだろうと推測される。

 

とあります。やっぱりみんな意味が分からなかったのかと思ってちょっとほっとした(笑)。「私など最初は、川を見下ろす旅館の二階で女性がお茶を淹れている場面を想像してしまったが、みんなの読みはそうではないらしい。」とあり、一緒!って気持ちと、違うの?って気持ちが交錯しました(笑)。

 みんなの読みはそうではないらしい、ということは、やっぱり「お茶をくむひと」に「お茶汲みOL」的なニュアンスを嗅ぎ取るべき、ということだろうか。その場合、どういう意味合いで読めばいいのか分かりません。ポリコレ的な読み方すると、女にお茶を汲ませてこの野郎!ってことになっちゃうじゃないですか…。もしかすると現在進行形でお茶を汲んでいるわけではなく、一緒にいる「姉」は同時に「お茶汲みOL」でもある、ということだろうか。川をふたりで見ながら「もうあの仕事クソ。女はお茶汲むかコピーしてろって感じ。マジありえない」って言ってる姉の愚痴を聞いているというか…。その場合、「かろうじてきれいな川」って何だ。きれいでも何でもないわ。

 

 それにしても「テーマは年上の女性に対する淡い恋情と、まもなく関係が壊れるという予感あたりだろうと推測される。」とありますが、「姉」という題詠で「姉」が出て来てそれを「年上の女性に対する淡い恋情」と解釈するのは納得できない。「姉」は「姉」だろう。「まもなく関係が壊れるという予感」はおそらく「かろうじてきれいな川」からの連想だと思われますが、「お茶をくむひと」という言葉の女性蔑視的なニュアンスをどう捉えればいいか分からず、前半と後半の繋がりも読めません。

 

 

 まあ、勝敗はって聞かれたら高島裕ですよね。[sai]歌合は最初の「パパイヤ」以外はわりと私の中で勝ち負けを迷いませんでした。今回読んでて、玲はる名の歌が一番よかったな。次は今橋愛。玲はる名のことは全然知らなかったのですが、これから歌を読んでみようと思いました。

 それにしても[sai]読んでみたかったのですがもう手に入らないようです。残念ですね。中古同人誌を取り扱うお店とかあたるしかないのかな?

 

 

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